ARTIST INDEX

■ CDS&RECORDS [1/11]
友川かずき
「友川かずき/千羽鶴を口に咬えた日々(そっと三枚目)」(1977年 JAPAN)

 秋田訛りで絶叫する異才のフォークシンガー友川かずき(現:友川カズキ)、人気曲「生きてるって言ってみろ」を収録した3rdアルバム。 インストルメンタルのT-1「オープニングテーマ」はピンクフロイド「狂気」を聴いてるのかと錯覚させる雰囲気で妙な期待感を煽ります。 爽やかなフォーク調もあればロックやブルージーな曲もある幅広さなのですが一貫しているのは因習深く、暗く重い歌詞。 その歌詞でクリーンボイスと絶叫(デスボイス)を行き来する様子を現代的に解釈するとデス(メタル)フォークとでも形容したくなります。 T-6「なまはげ」ではオルガンとシンセをバックにエレキギターが唸り「くそったれ!」と叫び続けるこれまたフロイド風(いやホークウインドか?)ヘヴィロックナンバー。 更にはリバーブに深く沈んだMellotron 3Violinsも聞こえて来ます。 T-8「八竜町の少年達」ではカントリー風の爽やかなイントロと共にMellotron Fluteが導入されます。 軽快な曲に乗って語りも入るところでバックに再び爽やかなMellotron Flute登場。 しかし歌詞が怖い。 T-10「家出青年」ではキングクリムゾン「ハッピー・ファミリー」のギターフレーズまで登場する異様さ。 なるほど、編曲は天井桟敷のJ.A.シーザー。 下敷きにしたであろうピンクフロイドやキングクリムゾンの影響もなんのその、友川カズキの歌詞の世界と本気の絶唱がさらに上をいく濃厚さ。 メロトロン演奏はキーボードのクレジットがある平岩嘉信でしょうか。

2023年8月19日
嗚呼!!花の応援団
「コスモス・ファクトリー/嗚呼!!花の応援団 オリジナル サウンドトラック」(2008年 JAPAN)

 1975年から連載が開始されたどおくまんの人気漫画「嗚呼!!花の応援団」の実写による映画化。 日活によって1976年から77年にかけて三部作が公開されました。 大学の応援団を舞台に破茶滅茶な騒動を笑いと人情と下ネタで描いた娯楽作品。 サウンドトラックは当時ジャパニーズプログレッシヴロックの人気バンドだったコスモスファクトリーが担当。 音楽と映像の融合を標榜していた彼らは日活映画を中心に映画音楽にも力を入れていました。 応援団風の歌唱が入ったコミカルな作品とインストのコスモスファクトリーの楽曲には結構な落差を感じますがそれを押し切る映画のパワーがあったと言うことでしょう。 T-2「嗚呼!!花の応援団 タイトルミュージック」 ではトロピカルなギターでノリノリのサーフィンホットロッド サウンドを聴かせるコスモスファクトリーですが、そこはプログレバンドの意地か中盤にMellotron 3Violinsのバッキングが入ります。 バンカラとメロトロンのミスマッチが醸し出す妙味よ。 T-4「二人のテーマ」ではシンプルなアコースティックギターのストロークをベースにMellotron 3Violinsが彩りを添えるフォーキーで美しい曲。 中盤からエンディングにかけてはMellotron 3Violinsのダブルトラックになります。 一音一音メロトロンの音を置いていくような作りで、音量の大小やテープの擦れなど各鍵盤の音のばらつきまでわかる生々しさでメロトロンをしっかり堪能できます。 ここまでは1976年8月公開の第一作「嗚呼!!花の応援団」のサウンドトラックから。 同年12月公開の第二作「嗚呼!!花の応援団 役者やのォー」よりT-10「予告編用ミュージック」では何故かメロトロンを抜いたT-2が使用されます。 この辺りサーフィンホットロッド とメロトロンのミスマッチを改めて感じたか、それともソリーナに対し使用頻度の下がっていたメロトロンの古臭さが敬遠されたかなど理由は不明です。 余談ですがT-11「新子のテーマ」などは神秘的なピンクフロイドを想起させ、いかにもコスモスファクトリーであり70年代らしいなと嬉しくなる作品です。

2023年8月17日
サイズ
「PSY・S/Two Bridges」(1996年 JAPAN)

 「PSY・S終焉。」と銘打った最終作は、90年代にリリースした楽曲からのベストリミックスアルバム。 オリジナルのラストアルバムとなった1994年作「Emotional Engine」から収録されたT-15「Seeds」に注目。 フェイザーでゆったり揺らいだ松浦雅也のピアノに導かれてチャカが全編英詞で歌うスローナンバーですが、曲開始3:00から一気に転調して攻撃的なバイオリンとドラムがなだれ込みます。 そしてチャカの高速ラップが始まると同時にMellotron 3Violins(もちろんサンプリング音源でしょう)が加わり、もはや70年代イタリアンプログレの様相を呈します。 結構シリアスでヘヴィな展開なのですがポジティヴな希望の種(Seeds of Hope)についての英詞が歌われます。 4:10を過ぎて再び何もなかったように当初のスローな曲へ戻ります。 その後5:00過ぎからオリジナルには無かったシークレットトラックとして本アルバムのT-1「遊びにきてね」のストリングスセクションのレコーディングテープ(話し声など含む)が連続し、アルバム全体が輪廻するトータルアルバム的な展開に。 松浦さんはそれまでもレゲエ(ボブ・マーリー)やプログレ(ピーター・ガブリエル)など様々なオマージュをPSY・Sの楽曲に散りばめながら、ずっと最先端の音作りをしてきた中で最後の最後はイタリアンプログレとメロトロンで来たのか!と驚きました。 PSY・S終焉のレクイエムとしてメロトロンサウンドの導入は正解だったのではないかとファンの一人として思っています。

2023年8月16日
お馬と馬車
「お馬と馬車(ザ・カーツ)/子捨て川」(1973年 JAPAN)

 フォークソング全盛の1960年代後半から1970年代に組織されていたフォーク集団 フォークメイト(FOLK MATE)に属し、1971年度のハルミラ・ニューフォークコンテスト(前年優勝者はフォークシンガー本田路津子)で優勝した男性3人女性1人の4人組。 1973年、東京音楽スクール フォークギターコースの卒業アルバム(自主制作レコード)にも音源が残されているので、デビュー前から実力派として認められていたようです。 このテイチクからのデビューシングルですが作曲がメンバーの坂田正和で編曲がキャンディーズのブレインでお馴染みの穂口雄右となっています。 穂口雄右さんはテイチクのGSアウトキャストのキーボードでしたのでその流れでの参加かもしれません。 A面の「子捨て川」はタイトルからも察しの通りマイナーなフォークで、冒頭からMellotron 3Violinsがむせび泣く作品。 演歌といっても差し支えない暗さにメロトロンが本当によくマッチします。 このメロトロンですがテープへのアタック音(鍵盤を押してテープがヘッドに当たる際にプッと鳴るいわゆる雑音)が強めに出て、さらに音がヨレると言うメロトロンマニアが喜ぶ個体です。 綺麗に録音したいところにこのコンディションですから穂口さんも苦労されたのではないでしょうか。 それでも頑張るメロトロンさんはイントロからエンディングまで悲壮な覚悟で楽曲を引っ張りましたので一聴の価値あるメロトロンソングになっています。 シングルB面「サヨナラの移りかわり」(女性ボーカルの明るく爽やかなソフトロック調)と、翌1974年のシングル「絵はがき/あの人が来るまで」では生のストリングスが導入されています。

2023年8月14日
石崎光
「Negicco/MY COLOR」(2018年 JAPAN 画像左)

 みんな大好き、私も大好き、新潟ご当地アイドルNegiccoちゃんの4thアルバム。 多くのアーティストに愛されて本作も楽曲提供から制作まで有名どころが名を連ねています。 ここでピックアップする収録曲T-4「愛、かましたいの」はアルバムに先行する2016年暮れにリリースされた、タワーレコード傘下のT-Palette Recordsにおける12thシングル。 バラエティに富んだ楽曲が並ぶ中「愛、かましたいの」は、60年代オールディーズにカンフーテイスト(笑)を取り入れた元気なナンバー。 編曲はプロデューサー、アレンジャー、ギタリストをはじめマルチプレイヤーで新潟ご出身の石崎光さん。 石崎光モノは毎度マニアックな楽器クレジットで我々をワクワクさせてくれるのですが、今回は「リッケンバッカー、メロトロン、ヴォックスオルガン、オムニコード、グロッケンシュピール、エレクトロニクス」となっています。 曲頭から銅鑼が鳴ったと思えば「ハイッ!」と合いの手が入りメロトロン(恐らくお手持ちのMellotron Mark VI 3Violinsと思われます)のピッチベンドでニュイーン!と中華風なオープニングで楽しませてくれます。 曲中はラディックドラムがズンドコ言うリズムにキラキラしたエレキギターやキーボードがヴィンテージ風ポップスを演出しています。 その後もメロトロンは飛び道具としてニュイーン!とピッチベンドをかましています。

「高橋優/PERSONALITY」(2020年 JAPAN 画像右)

 シンガーソングライター高橋優、メジャーリリース7作目のアルバム。 「明日はきっといい日になる」というフレーズをテレビやラジオから聴いて知っている方も多いのではないでしょうか。 私もその一人です。 さて問題の収録曲T-11「本命」の編曲はもちろん石崎光で、楽器のクレジットは「Rickenbacker、Mellotron mark VI、Chamberlin M1、Prophet-5、Electronics」となっています。 なんとメロトロンだけでなくその祖先であるチェンバリンまで導入されるレアなJ-POPです。 イントロから深くリバーブに沈んだストリングスが浮かんではベンドダウンしていきますが、これは恐らくMellotron 3Violinsかと思われます。 メインに聞こえるギターは宝刀リッケンバッカーで、その他のシンプルなギターフレーズがパトリック・ウォーレンよろしくChamberlin Guitarだったりするかもしれないと言う現段階での私の耳分析。 毎度マニアックな楽器と凝ったアレンジで我々を楽しませてくれる石崎光作品、今後も我々に難問を突きつけるのでしょうね(汗)

2023年8月14日
マギー・メイ
「マギー・メイ/続・二人暮らし」(1973年 JAPAN 画像左)

 アニメ「キテレツ大百科」テーマソング「はじめてのチュウ」の作者 実川俊晴(あんしんパパ)が率いたアコースティックロックグループ。 実川俊晴のクリアなヴォーカルとパワフルなコーラスワークを前面に押し出したソフトロック的アプローチを売りにしていました。 こちらは1stアルバム「マギー・メイ・ファースト 」(1973年)レコーディング終了後に引き続きレコーディングしリリースされた3rdシングル。 バンドとしてのまとまりとヒットを意識した結果、コーラスを少し後退させたとのことで非フォーク、且つ70年代ニューミュージックのいいところに接近した絶妙なバランスの曲です。 アルバム本体は柳田ヒロのアレンジしたストリングが導入されていましたが、この「族・二人暮らし」にはメロトロンが導入されています。 アコースティックギターと矢野誠のエレピに導かれて始まり、間奏と同時に始まるエレキギターソロのバックにMellotron 3Violinsが流れます。 終盤も同様にギターソロとコーラスにMellotron 3Violinsの大団円。 シングル盤のジャケットのメロトロンクレジットは「Melotron:トコ」(L一個抜けの表記)で、矢野誠と同じ事務所だったブラウン・ライス、Tinnaで活動した惣領智子(当時は吉原智子)が担当しています。

「マギー・メイ/もう一年になる」(1974年 JAPAN 画像右)

 ポリドールから日本コロムビアへ移籍後の第一弾となったシングル。 プロデューサーやレコード会社からの意向が強くなり、活気のあったコーラスワークは影を潜めややフォークロック寄りになる時期の作品です。 シングル盤のジャケットには記載がありませんが、B面「私の小さなブティック」には深町純で「A&E.Piano」のクレジットがあります。 深町純...これは怪しい(笑)と思いつつ聴き進めると間奏のバックにうっすらと品のあるMellotron 3Violinsが流れています。 弾いているのは深町純さんで、もしかしたら自前のメロトロンをコロムビアスタジオへ持ち込んだのかもしれません。

2023年8月14日
ヒカシュー/イノヤマランド
「イノヤマランド/コレクティング・ネット」(2018年 JAPAN 画像左)

 1977年「コレクティングネット」公演の劇伴と1978年の8mm自主映画「マイネ・リフレクション」のサントラを中心にコンパイルした発掘音源CD。 前衛劇団ユリシーズ 1977年「コレクティング・ネット」公演の音楽担当となった山下康に、主催する巻上公一がメロトロンを収集(!)していた井上誠を紹介したことをきっかけにユニットとしての「ヒカシュー」が始動。 更に並行して活動を続けることになる後の「イノヤマランド」も同時に誕生することになる原点の作品。 後にイノヤマランドの1stアルバム「ダンジンダン・ポジドン」(1983年)に収録される「Shüffer」「Glass Chime」(本作ではDonkikaro Tokikaroというタイトル)「Meine Reflexion」「Wässer」の原型も収録されています。 T-1「Ring Mod」硬質なシンセのリングモジュレートサウンドが開演前に流されていて、劇場ではMellotronの自家録音テープによるセミ(ひぐらし)の声が演奏されていたというライナーの解説。 ブックレットの舞台写真には廃棄物のテレビや自転車の車輪に混じりメロトロンM400Sの姿も確認できるのでセットの一部のようでありながら、これが演奏可能な状態でのセッティングだったのかもしれません。 T-3「Morn」ではシンセのホワイトノイズによる嵐の表現を背景に美しいピアノシーケンスが流れ、そこへMellotron Fluteによるソロが加わります。 まるで荒涼たる大地で口笛を吹いているかのような心静かな印象です。 T-5「The Great Raven」では、いわゆるタンジェリンドリーム風シンセシーケンスが先導するプログレッシヴで攻撃的な作品。 様々な音が浮かんでは消えてゆく中に切れ味鋭いMellotron 3Violinsを聞き取ることができます。 1998年にリリースされた「プレ・ヒカシュー」に収録された「Raven」はこの曲の未完成テイクであるとのこと。 T-7「Donkikaro Tokikaro(Glass Chime)」ではピアノのフレーズが美しく循環する中をMellotron 3Violinsが先導して行きます。 T-8「Mahout」は、重厚なシンセシーケンスをベースに珍しいMellotron TrumpetやMale Choirが現れては消えてゆくヴァンゲリス作品のような印象です。 ライナーに依るとMellotronに[Trumpet/Trombone/Male Choir]のテープがセットされていたとのこと。 翌1978年の石川啓三監督作品 8mm自主映画「マイネ・リフレクション」のサントラ曲である T-12「Maine Reflexion」では、土着的なパーカッションにリコーダーとギターのアルペジオがなんとも言えない虚無感を表現する中、Mellotron 3Violinsの音が更に孤独感までも増幅させます。 再びコレクティング・ネットの劇伴に戻りT-14「Shüffer」では美しいピアノとストリングスシンセが舞台の終盤を飾り、そこへ神々しいMellotron 8Voice Choirが加わり劇場を浄化する様子が伺えます。 メロトロンの陽光は雲間から降り注ぎ、もはや天に召されてもおかしくない空気を漂わせています。 アンビエントミュージックの重鎮であるブライアン・イーノやジャーマンプログレッシヴロックのタンジェリン・ドリーム、さらには壮大なサントラを得意とするヴァンゲリスなどと同時代にここまで完成度が高く幅の広い音楽表現をしていたのかと改めて驚かされます。

「プレ・ヒカシュー/天井桟敷館 ライヴ 1978」(2019年 JAPAN 画像右)

 1977年8月から1978年7月までの約1年間活動したエレクトロニクスとエスニックの共存する音楽集団「ヒカシュー」のCD2枚組140分に及ぶ活動記録。 現在に至るヒカシューとは表現が異なるため便宜上「プレ・ヒカシュー」と分類されています。 シンセサイザーやメロトロンを中心とした山下康、井上誠に、インド、ネパールでタブラ修行をしてきた逆瀬川健治とアジアを中心とした民族楽器を収集していた若林忠宏、さらには東京キッドブラザーズや天井桟敷関係で井上誠の友人であった加藤伸代(日夏たより)と佐々木幸子の総勢6名の有機的な即興音楽集団です。 シタール、タブラ、マンドリン、バンジョー、鈴、オカリナ、ボンゴ、大正琴、シロホン、篠笛、ムリダンガ、サーランギ、エクタール、等々膨大な楽器群が延々と鳴り響く中にメロトロンが絡み合う様子は音楽を超えて旅に出るような気分にさせられます。 私が好きなのは独自に録音した1/4インチテープのメロトロンから発せられるセミの声。 メロトロンは元々3/8インチと言う特殊幅のテープを使用していて、メロトロン内部にある通称「櫛」と呼ばれるテープガイド部分を1/4幅のコンバージョン(変換)キットに交換する事で初めて自家録音テープを再生することができるのです。 メロトロンを単なるストリングスマシーンとしてだけでなく、まさしくサンプラーとして活用した世界的にも希少な事例がこのプレ・ヒカシューのCDで確認出来ます。 更に独自に録音したテープをメロトロンのテープラック(カートリッジ)へ納める作業、メロトロンの再生ヘッドへ位置を合わせて35鍵盤分の調整を繰り返す事を想像してください。 これらが地道で根気の要る作業であるだけでなく、音楽的に成立させるという意味がどれだけ新しかったか。 時は1978年の日本、その着想と情熱にはただただ驚くばかりです。 言い換えれば、この世の全ての音を採取し再生するメロトロンの無限の可能性の最前線にヒカシューがいたのです。 このCDの主要音源である1978年4月15日の元麻布天井桟敷館には井上誠さんが所有するメロトロンM400Sが3台持ち込まれ、それぞれMellotron Type-A[Flute、Strings、Cello]、Mellotron Type-B[Choir、Trumpet、Trombone]、Mellotron Type-C[蝉、鳥、獣、人、銅鑼、梵鐘、爆発音のセルフサンプリング]というテープセッティングになっていました。 メロトロンプレイヤーのクレジットは山下康、井上誠、佐々木幸子の3名。 ヒカシュー メロトロン3台伝説はここから始まりました。 メロトロンマニアの皆さん、未知のメロトロンサウンドの宝探しをしてみてはいかがでしょうか? これはメロトロンの歴史に間違いなく残る作品なのですから。

2023年8月13日
清浦夏実
「清浦夏実/19色」(2010年 JAPAN)

 テレビドラマなどの女優業のほか沖井礼二とのユニットTWEEDEESで活動する清浦夏実の1st。 それまでリリースしたアニメのタイアップシングルに曲を追加したフルアルバムは、クレジットに菅野よう子、吉良知彦、久米大作、島田昌典、笹子重治、青山純ほか、目を引く名前がずらりと並んでいます。 中でもやはり島田昌典が編曲したT-11「七色」は伝家の宝刀Mellotron MarkVIが活躍する注目すべき1曲。 冒頭のドラムフィルイン後、Mellotron 3Violinsがじわりとピッチベンド(アップ)しながら先導し歌の直前で再びベンドして歌へバトンを渡す丁寧なメロトロンイントロ。 矢吹香那の作詩曲による安易に盛り上げない抑制の効いたメロディへメロトロンを大量投下しつつ、これまたじわりじわりと盛り上げる島田昌典のアレンジに不覚にも涙腺が緩くなりました。 メロトロンのストリングスと言えば終末感と絶望感の象徴みたいなものですが、アレンジの妙と言いましょうか絶妙なコード進行と言いましょうか、この曲にはかすかな希望の光を感じます。 この曲調ならMellotron Fluteもピタリとはまる気がするので「宮殿+苺畑」とでも評してみたかったところですが、そんなイージーな展開にしないところがミソですね。 他の楽曲も捨て曲なしの全12曲、清浦夏実のまっすぐな歌唱が心に沁みるこれはJ-POP名盤と言っていいのでは?

2023年7月15日
寺尾聡
「寺尾聡/ほんとに久しぶりだね」(1974年 JAPAN)

 ザ・サベージ、ホワイト・キックスと在籍したグループサウンズ期を経て1970年にソロへ転向した寺尾聡。 既に主軸を俳優業へ置いていたためかタイトル通り久しぶりとなった1974年リリースの2ndシングル。 自らも出演するドラマの挿入歌だったA面「ほんとに久しぶりだね」と、B面「何処かへ」共にバックを務めるのはアレンジとキーボードを担当するミッキー吉野率いるミッキー吉野グループ。 フォーク風味のソフトロックなA面はのんびりしていかにも70年代の空気が漂っています。 キーボードはメインにFender Rhodesを据え、イントロで前面に出るモノフォニックシンセサイザーはRolandでしょうか、そしてMellotronがセッティングされています。 間奏やシンセソロへのブリッジ部へMellotron Fluteが使用されていて、 ポリフォニックシンセサイザー前夜において曲に彩りを与える役目をメロトロンが果たしていた好例です。 かわって渋いボサノバ風味のB面では揺らいだFender RhodesがリードするバックにMellotron 3Violinsがエンディングまで使用されています。 サックスソロと重なるメロトロンの実にクールなこと。 その後1981年に一斉を風靡したシングル「ルビーの指環」を収録したアルバム「Reflections」(時系列では1980年のシングル「SHADOW CITY」が先行)における、いわゆるアーバンなAOR志向は1974年のシングルB面「何処かへ」から既に確認できます。

2023年4月8日
ムーンライダーズ
「MOON RIDERS/Istanbul mambo」(1977年 JAPAN)

 2016年某日とある撮影現場(勘がいい方ならおわかりと思いますが)で鈴木慶一さんとほんの少しお話しする機会がありました。
 鈴木「今まで弾いたことのあるメロトロンで一番調子が良かったよ」
 私「ありがとうございます! ムーンライダーズも
ヌーベルバーグで岡田徹さんがメロトロン使ってましたよね?」
 鈴木「うん、その前のアルバムの女友達(悲しきセクレタリー)って曲でも使ったよ、ボクが弾いてるから探してみて」
 私「本当ですか、チェックしてみます!」
 撮影の合間の忙しい中でしたが気さくに、そして私が聞きたそうな話題を端的に話してくださって嬉しかったなあ...と言うわけで話題はムーンライダーズ 1977年の3rdアルバム「Istanbul manbo」の収録曲へ移ります。
 いわゆる米英の洋楽志向からさらに展開し中近東へも接近した意欲作。 都会的(合理的)な生活を好む女性秘書の生活を描いた A-5「女友達(悲しきセクレタリー)」では武川雅寛のバイオリンと鈴木慶一のFender Rhodesのゆらゆらしたイントロで始まり、ほどなく大野方栄のコーラスと苺畑フレーズのMellotron Fluteが加わります。 また、メロトロンとバイオリンの間を繋いだりバイオリンのバックを補完したりするようにSolinaが添えられています。 孤独を愛しながらもどこか空虚な秘書さんの心持ちを表すかのようにMellotron Fluteがエンディングまで導入されています。 メロトロン特有のテープアタック音や揺らぎが儚さを醸し出す美しい一曲。 ちなみにアルバムライナーにMellotronのクレジットが無いのもお宝を発見したような気分ですね。

2023年3月19日
森高千里
「森高千里/ROCK ALIVE」(1992年 JAPAN)

 ヒット曲「私がオバさんになっても」収録の6thアルバム。 収録16曲全ての作詞を自ら担当し一部の演奏までこなしています。 独特な歌詞が90年代J-POPらしいバブリーな曲からビートリッシュやパワーポップいい感じのところに収まっていて、プロデューサーやミュージシャンの力量も相当なものだなと再認識しました。 DPやZEPですら歌詞なんて大したこと言ってないのは日本語ロックの王様で確認済みでしたね。 T-4「叔母さん」ではイントロからMellotron Fluteが顔を出し、作曲を担当した当時人気のプロデューサー伊秩弘将のピアノが先導していきます。 母親の妹である叔母さんのキャリアウーマンを生き抜く生態(フィクション)を克明に記述した、バブルの遺産的な歌詞が今となっては懐かしさを感じさせます。 メロトロン演奏はギターとコーラスも担当する高橋諭一で、シンセパッドも含め叔母さんの様子を憂う雰囲気を醸し出しています。 強めのフェイザーで揺らいだメロトロンサウンドは恐らくサンプリングですが、その後のヴィンテージシンセブームを一歩先取りしたタイミングだと思います。 メロトロン目当てに買った人も多かったE-MU Vintage KeysやRolandの音色拡張ボードも時期的にこのレコーディングには間に合っていないでしょう。 AKAIのサンプラーSシリーズなどで良いサンプルディスクを使用したのでしょうか。 エンディングまでゆらゆらと心地よいMellotron Fluteサウンドを響かせます。

2023年3月12日
細野晴臣
「細野晴臣/TROPICAL DANDY」(1975年 JAPAN 画像左)

 細野晴臣トロピカル三部作の先陣を切るソロ2ndアルバム。 カリプソやサルサにシルクロード、そして喜納昌吉&チャンプルーズらにも触発されたごった煮のエキゾチックサウンドが快適な名盤から。 アルバムで唯一メロトロンが導入されるT-2「ハリケーン・ドロシー」ではチャカポコしたエーストーンのリズムボックスをベースにふわふわしたMellotron Fluteがバンドアンサンブルの先頭で揺らぎます。 もしかしたら別の楽器かなと思うフシもありましたが、曲の終盤に向かって様々なメロディラインを弾き始めるとメロトロン特有のアタック音やヨレがしっかりと確認できます。 歌詞にも登場するカリブが舞台でしょうか、高めの気温にぼんやりさせられるような曲調は少したどたどしいメロトロンの緩い動作が心地よくマッチしています。 バックを固めるのはティンパンアレーでピアノやハモンドオルガンのキーボードクレジットは松任谷正隆ですが、このメロトロンは細野さんの演奏になっています。 ここでも「松任谷正隆モノにMellotron無し」の定説は健在。

「小坂忠/MORNING」(1977年 JAPAN 画像右)

 ザ・フローラル、エイプリルフール等を経たシンガー小坂忠がティンパンアレー周辺の盟友と作り上げた6thアルバム。 朝や旅をテーマにしたこれまた快適なセルフプロデュース作品で、アルバムラストの「上を向いて歩こう」も構想段階からカバーすることを決めて制作に取り掛かったそうです。 レゲエ調の緩やかなアレンジの他、メロトロンを担当するのは細野晴臣。 口笛のソロが入る手前1:42から強めにフェイザーが掛かったMellotron Fluteが登場します。 そして3:21にもう一度。 アルバムで使用されるメロトロンはこの一曲の2ノートだけと言う飛び道具ですが、裏ノリの曲調にとてもいいアクセントになっています。 ここでメロトロンのあの音を使おうとか細野さんの頭の中にはメロトロンの音の引き出しがあったのでしょうか。 いやそれともスタジオにたまたまメロトロンがあったから使ってみたと言うアドリブ感覚? 「なんでここにメロトロンがあるんだ」って偶然の出会いを楽しむ細野さんの(どてらYMO「なんでここにベースがあるんだ」 モヤモヤさま〜ず「なんでここにピアノがあるんだ」的な)声が聞こえるような妄想をしながら聴いてみました。

2023年3月10日
アグネス・チャン/陳美齡
「アグネス・チャン/Loving Songs」(1975年 HONG KONG 画像左)

 東南アジア大手のLIFEレコードからリリースされたアグネス・チャンの香港における4thアルバム。 フォークやカントリー系のポップスを中心に選曲カバーされた12曲中10曲にメロトロンが使用される高濃度メロトロンアルバムです。 1971年にジョニ・ミッチェル「Circle Game」のカバーで話題となり、同年LIFEレコードからポップスのカバー曲を集めた1stアルバム「Will The Circle Game Be Unbroken」でデビュー。 翌年には平尾昌晃のスカウトにより本邦デビューし一躍人気アイドルとなったのはご存知の通り。 元々フォークシンガー志望だったにもかかわらず日本ではアイドル的な売り方をされて困惑したというが、デビューシングル「ひなげしの花」や「草原の輝き」のジャケットでフォークギターを持たせているのは日本側のせめてもの罪滅ぼしか。 さてアルバムA-1「Follow Me」(ジョン・デンヴァーのカヴァー)ではフォーキーなアコギのバッキングに花を添えるような美しいMellotron 3Violinsが導入されエンディングまで併奏します。 A-2「Less of Me」(グレン・キャンベルのカヴァー)でも前曲と同様のアレンジで3Violinsが使用されています。 A-3「If You Love Me」(オリヴィア・ニュートン=ジョンのカヴァー)でも前曲と同様に3Violinsが使用されています。 この辺りはまさしくストリングスセクションの代用として(シレッと)使用されるメロトロンの本領発揮といったところ。 A-4「To Love Somebody」(ビージーズのカヴァー)ではイントロど頭からエンディングまでMellotronが使用され、入念にアレンジされた3Violins、Brass、Fluteのアンサンブルが楽しめます。 メロトロンを多用していた初期ビージーズのオリジナル作品の中でもこれはメロトロン未使用曲でしたのでそう言った意味でも興味深い1曲です。 A-5「Keep On Singing」(ヘレン・レディのカヴァー)ではMellotron 3Violinsのバッキングに加えMellotron Brassが控えめにカウンターメロディを奏で、終盤に加わる生のコーラスを迎え入れる段取り。 A-6「Daddy's Home」(シェップ & ザ・ライムライツのカヴァー)ではドゥーワップのオールディーズをMellotron 3Violinsの伴奏で聴かせるロマンチック且つイカれたアレンジで仰天させつつ、終盤にMellotron Fluteのソロで浄化する(笑)という構成でA面を終えます。 B-1「Loving Song」(ナナ・ムスクーリのカヴァー)ではピアノのイントロへMellotron 3Violinsがゆっくりとフェイドインしながら合流しそのままバッキングの主導権を握っていきます。 美しいピアノの音色と比較すると磁気テープを再生するメロトロンの音の不安定さラフ(育ちの悪さとも言うべきか)さが際立っています。 そして出ずっぱり弾きっぱなしのままエンディングとなります。 B-2「Let Me Be There」(オリヴィア・ニュートン=ジョンのカヴァー)ではMellotron 3Violinsがストリングスセクションの代用として安定した仕事をこなします。 チリチリとヒスノイズを上げる3Violinsの音が歌の合間から顔を覗かす瞬間はマニアならニヤリとするはず。 B-5「Home Ain't Home Anymore」(オリヴィア・ニュートン=ジョンのカヴァー)ではギターのアルペジオに合わせてMellotron Fluteが使用されるイントロで幕を開け、Mellotron 3Violinsがバックを流します。 この曲ではオルガン等も加わりカラフルなアレンジがされています。 アルバム最後B-6「Too Many Mornings」(グレン・キャンベルのカバー)ではオルガンとギターにMellotron Fluteを加えたイントロに始まり、Mellotron 3Violinsがバックを流します。 この曲に限ってはメインはオルガンのようで3Violinsは控えめなユニゾンで使用されているように聞こえます。 メロトロン演奏はJohnson Wong、プロデュースとアレンジは1stアルバムから引き続き参加するギターのWallace Chauのクレジットになっています。 1971年の1stアルバムから1974年の3rdアルバムまでメロトロンの使用が確認できませんでしたので、このアルバムのレコーディングに際し香港のLIFEスタジオへメロトロンが導入されたものと思われます。 日本に於いてメロトロンが一気に普及しレコーディングされたいわゆる「日本におけるメロトロンイヤー」は1973年〜1974年ですので香港は一足遅かったのでしょうか? もしこの作品が1972年あたりだったらアグネスは日本のアーティストより一足先にメロトロンの洗礼を受けていたことになるし、メロトロンはイギリスから香港経由で輸入されたなんて仮説を立てて楽しもうと思ったのですけれど。

「アグネス・チャン/電影 我在戀愛 原聲帯全部插曲」(1975年 HONG KONG 画像右)

 アグネス・チャン主演の映画「我在戀愛」のサウンドトラック。 カントリーフォーク調をはじめとする楽曲のバックに導入されるのはメロトロンではなく生ストリングス。 広東語で歌われる曲に混じり同年のアルバム「Loving Songs」からメロトロンソングである「Follow Me」「Daddy's Home」「Loving Song」「Let Me Be There」が収録されています。

2023年3月5日
オフ・コース
「オフ・コース/あいつの残したものは」(1976年 JAPAN)

 2人組オフコース(当時の表記はオフ・コース)8枚目のシングル「ひとりで生きてゆければ」のB面、鈴木康博の作詞作曲リードヴォーカル曲。 オフコースのメロトロンと言えばアルバム「ワインの匂い」(1975年)収録「倖せなんて」における小田和正のMellotron Fluteだけだと思っていましたが、こちらにもう1曲アルバム未収録の隠れたメロトロンソングがありました。 深くリバーブをかけて神秘的なムードだった「倖せなんて」に比べ、フォーキーで穏やかな曲調のバックを支えるMellotron Fluteはほぼドライ。 飛び道具としての役目はシンセやエレピに任せてMellotron Fluteは曲の最後まで和音を刻んで楽曲のカラーを決定づけています。 1975年「倖せなんて」、1976年「あいつの残したものは」、に続いて1977年の飛行船(あんべ光俊)のアルバム「風の時刻表」(小田和正とプロデューサーの武藤敏史がメロトロンを演奏)までオフコースのメロトロン時代と言えると思います。 また、このシングルからドラマーの大間ジローが正式加入し後の5人組バンドへの変化が始まり、小田和正は音楽の幅を広げるため同年のアルバム「SONG IS LOVE」から独学でフルート演奏を始めます。 そのタイミングはメロトロンによるフルート演奏がきっかけになったのではないかと勘ぐってみたくなります。 本シングルの録音は東芝EMIスタジオ、クレジットはありませんがメロトロン演奏は恐らく小田和正と思われます。お

2021年10月29日
野坂昭如
「野坂昭如/分裂唄草紙」(1974年 JAPAN)

 作家としてだけでなく歌手としても異彩を放った野坂昭如のアルバム5作目。 小室等、泉谷しげる、吉岡治、武田鉄矢、小谷充など豪華な作家陣を迎え、タンゴ、じょんがら、ロック、ソウル、演歌と縦横無尽に歌いまくる怪作。 唯一高中正義が編曲したA面4曲目「十人の女学生」では、10人の女学生が1人づつ様々な事故や犯罪(人さらい、女郎屋、窃盗村八分、狐に憑かれる、集団強姦、無理心中、家出、放火鑑別所、天然痘、首吊り)に巻き込まれて最後には誰もいなくなると言う内容。 ミドルテンポのロック調、残り5人になったところで突然Mellotron Choirが唸りを上げ、Mellotron 3ViolinsとChoirによる恐ろしい間奏が入ります。 残り2人になったところで再び恐怖のMellotron Choirが雄叫びを上げ、とうとう最後の1人になったところでMellotron 3Violinsに加えMellotron Celloの低音が唸りだします。 そして最後に「そこで誰もいなくなった〜♪」と歌いきったのを待ちかねたようにMellotron Cello、3Violinsがおどろおどろしいアンサンブルを奏で、高中正義のギターソロを交えてエンディング。 飄々と歌い続ける野坂昭如と恐怖を煽るメロトロンの対比がハマった物悲しい珍曲。 メロトロン演奏のクレジットは不明。

2021年3月1日
ゆらゆら帝国
「ゆらゆら帝国/空洞です」(2007年 JAPAN)

 ゆらゆら帝国の最終作となった2007年の11thアルバム。 呪文のようなミニマルテクノのような反復は、出ない答えをずっと待ってるような心境になります。 無駄な音のない3ピースバンドに、管楽器が実に上手く配されて時にグルーヴィーでもありスタイリッシュな雰囲気さえ漂います。 T-9「ひとりぼっちの人工衛星」の間奏では坂本慎太郎のクレジットでMellotron Fluteが登場。 ゆったりとしたテンポで宇宙空間を漂う美しいMellotron Fluteと役目を終え行き場を失った人工衛星からの視点は、ゆらゆら帝国版David Bowie「Space Oddity」とも言える雰囲気があります。 アルバムのタイトルトラックでもあるラストT-10「空洞です」では中盤から極彩色のMellotron 3Violinsが使用され、妙な達成感を得られたような気持ちになるのは私だけではないでしょう。 メロトロンのサウンドと共に全て押し流されてアルバムは終わり、すぐに虚無感が押し寄せてきます。 そしてまた答えを求めてアルバム1曲目から聴き始める...術中にハマるとはこのことでしょうか。 T-10キーボードのクレジットはアルバムのサウンドプロデューサーでもある石原洋。

2021年2月28日
横倉祐児
「横倉祐児/神出鬼没 -nowhere to belong-」(1976年 JAPAN)

 海外放浪の旅、ハワイのキャバレーバンドのキーボーディストを経て、帰国後に制作したデモテープをもとにミッキー吉野らと共に完成させた幻の作品。 ゴダイゴデビュー前夜1976年1月から3月の録音でミッキー吉野、浅野孝己、スティーヴ・フォックス、アイ高野がバックを固めるも、メジャーリリースの計画が頓挫し2013年にようやくCD化されたもの。 海外を眺めてきたヒッピーが日本の社会情勢や日常生活をシニカルな歌詞に乗せフリーキー且つユーモアたっぷりに歌っています。 アルバム1曲目「はとバス」ではちょっととぼけたムードのMellotron Fluteがいい感じで脱力感を、続くサビでは端正なMellotron 3Violinsが登場します。 横倉さんご本人がゴダイゴの世界観に近いのでは?とコメントするT-4「朝風」でもMellotron Fluteがリズムの裏ででテンポを取るように使用され、Mellotron Fluteのみのフレーズでエンディングとなります。 ミッキー吉野さんのメロトロン演奏ってなんだかどれもシャレてるんだよね。

2021年2月28日
絵夢
「絵夢/絵夢」(1975年 JAPAN)

 女性シンガーソングライター絵夢のデビュー作。 79年の5thアルバム(現在までの最終作)に向かってポップ化が進みますが、出発点は情念たっぷりだったことが伺える内容です。 A-5「写真」では矢野誠の編曲で歌い始めからMellotron 3Violinsが使用されます。 イントロ部分には1ノートだけMellotron Celloも使用されているように聞こえます。 音は小さめのミックスなのですがまるでAMラジオから大量のノイズを伴って鳴らされているかのような独特の音質で否応無しに耳に飛び込んできます。 前年同じく矢野誠が編曲した佐藤公彦(ケメ)の「西海岸へ続く道」(アルバム「片便り」に収録)でもそうでしたが、高音がオーバー気味に録音されていて特別に迫力を感じます。 記憶に残る印象的なメロトロンサウンドを録音をさせたら矢野誠が第一人者ではないでしょうか。 ありきたりなメロトロンのフレーズや録音に物足りなさを感じているメロトロンマニアは一聴することをお勧めいたします。 アルバムでのメロトロン使用はこの1曲だけですが、B-2「有情無情の花」では同じく矢野誠編曲でムーディーブルース「サテンの夜」の例のフレーズが生のバイオリンで登場するお楽しみもあったり。

2021年2月28日
ビリー・バンバン
「BILLY BANBAN/VOL.4」(1974年 JAPAN)

 菅原孝と進の兄弟(次男、三男)フォークデュオ、芸音レコード(日本コロムビア)移籍後4作目デビューから数えて5作目のアルバム。 ピアノ、キーボード、メロトロン(編曲)に柳田ヒロ、ベースに後藤次利、岡沢章、ギターに高中正義らを迎え洗練された洋楽志向の作品になっています。 リリースは日本におけるメロトロンイヤーである1974年で、且つ柳田ヒロの組み合わせとくればメロトロンが導入されているであろうことは想像に難くありません。 冒頭の雷鳴から柳田ヒロのピアノと全編英語の歌詞で始まるアルバムはアート志向と言いましょうかいわゆるトータルアルバムの匂いがします。 A面最後の6曲目「何かがたりない」ではイントロからキャッチーなフレーズでMellotron Fluteが登場し、中盤のオルガンソロに合わせて結構な早弾きで再びMellotron Fluteが使用されます。 B面1曲目「愛情はぐれびと」では遠くからMellotron Fluteが鳴りはじめ、中間部でMellotron 3Violinsを使用し場面転換後に再びMellotron Fluteを、そしてMellotron 3Violinsでエンディングとなる構成。 B-2「朝」ワウギターが先導する曲のサビからエンディングにはまるで陽光のように感じられるMellotron Choirが使用されています。 軽快なアレンジのおかげかChoir音源で暗い雰囲気にならないのはかなり珍しいと思います。 B-3「招待状」ではブルージーな曲の冒頭とサビにMellotron Choirの高音部を使用。 B-4「愛の休暇」ではギターソロからの間奏部分にMellotron Choirの低音部が使用されて厳かなムードを演出しています。(CDではT-6からT-10まで連続するメロトロンソング) 後にリリースするキングクリムゾン「ムーンチャイルド」を思わせた「また君に恋してる」(2007年)なども突然変異ではなく、この頃からの地続きであったのではないかと思わせます。 フォークからニューミュージックへの移行期、腕利きミュージシャン達の好演も加わった上質な作品です。

2020年10月11日
クレイジーケンバンド
「CRAZY KEN BAND/Brown Metallic」(2004年 JAPAN)

 横山剣率いるクレイジーケンバンドの6thアルバム。 横山剣の昭和歌謡的な作品が並ぶ中、幅広い音楽性を持つギターの小野瀬雅生が主導するインストルメンタル「大電気菩薩峠」が異色。 四人囃子「空と雲」の完全なるオマージュというかほぼ同じ曲で、ある意味ムード歌謡的に聞こえなくもないところがミソ。 浮遊感たっぷりな曲中、Mellotron Stringsが登場。 恐らくデジタル音源だと思われますが、ローファイで巧みな録音がかなりいい音を醸し出しています。 キーボードは壷井彰久率いるKBBのメンバーでもある高橋利光。

2014年8月24日
ムーンダンサー&タキオン
「MOON DANCER & TACHYON/LIVE! 2013 Live At Rock Joint GB 2013.5.18」(2014年 JAPAN 画像左)

 2013年5月18日、それぞれ33年と32年の沈黙を破り復活ライヴを行ったMOON DANCERとTACHYONのライヴレコーディング。(オーバーダビング無し) ステージ中央コの字型に組まれた厚見玲衣のキーボードブース奥には黒いNOVATRON 400SM、向かって左側ギタリストへ向けてセットされた白いNOVATRON 400SMが目を惹きます。 当時のMOON DANCERでは使用されなかったメロトロン(NOVATRON)は6曲目の「哀しみのキャンドル」で登場します。 クリムゾンの宮殿を下敷きにしたかのようなドラマチックなイントロではKORG PE-2000でしょうか、コシのあるザラついた特徴的なストリングスが使用されています。 間奏では沢村拓のアコースティックギターのバックへ優しいNOVATRON Fluteが使用され、そのままシームレスにNOVATRON Stringsへ切り替えて劇的な場面転換が行われます。 ホルスト「火星」のようなリズム展開からハードなギターソロへ覆い被さるように怒濤のNOVATRON Choirが使用されエンディング。 後半のTACHIYONではアンコールで演奏されたザ・タイガース「美しき愛の掟」のカバーで、MOON DANCERのベーシスト下田展久がサポートし白いNOVATRONを演奏。 厚見玲衣の激しいシンセソロと共に壮絶なNOVATRON Stringsの嵐をエンディングまで弾き続けます。 モダンで壮大なアレンジに仕上げられた楽曲に驚くとともに、GSの世界観とプログレッシヴロックの壮大さには強い親和性があるのだなと改めて感心。 全編手弾きの華麗な鍵盤群と強固なバンドアンサンブルに圧倒される本作。 やはり本物の音は違う。

「V.A./SORCERIAN PERFECT COLLECTION」(1991年 JAPAN 画像右)

 日本ファルコムが開発し様々な形態で長く人気を保っていたコンピューターゲームのイメージ楽曲集。 編曲・キーボード厚見玲衣、ベース永井敏巳、ドラム菅沼孝三という超テクニカルなキーボードトリオは、SUPER ARRANGE VERSIONと謳い「ペンタウア」「エビル=シャーマン」の2曲でオリジナルのモチーフを拡大展開しています。 TACHYON再結成で演奏されたザ・タイガース「美しき愛の掟」のイントロで使われたシンセフレーズや基本骨格はこの「エビル=シャーマン」を原型としているようです。 前半ではMellotron Fluteがリードのメロディを奏でたり、中盤ではChiorの音源も使用されているようです。

2014年8月24日
BELLRING少女ハート
「BELLRING少女ハート/Killer Killer EP」(2014年 JAPAN)

 ブルース・リー先生の名言をもじった帯タタキ「考えるな。 買うんだ。」ということで買いました。 2012年結成のアイドルユニット、ベルハーの6thシングル。 今まで何十年も歌のヘタクソなアイドルをテレビやラジオで見聞きしてきたがこれはケタ違いの衝撃。 1曲目「Crimson Horizon」からレトロポップ感満載なムード。 鼻の詰まったような怪しいブラスサウンドが実はクセモノで、サビでは火炎の如く吹き荒れるMellotron Brass(もちろんデジタルでしょうけど)だった。 音的にはCZARやリザード期のKING CRIMSONなんかに近い印象。 タイトルはキングクリムゾンと歌詞に出てくる夕景のダブルミーニングか。 2曲目「プラスチック21g」でもゴーゴークラブよろしく懐かしいグルーヴ感。 3曲目「kUMA GOQLI」は出だしから甘いMellotron Stringsが登場しエンディングまでたっぷり楽しめる。 しかしなんでしょうこの幻感(げんわくでは無くまぼろしかん)というか実在感の無さ。 昭和の映画のワンシーンに一瞬出てきた架空のバンドの如く、いつまでも頭の中に残って気になって仕方ない。 編曲とキーボードはBELLRING中年ハートでも活躍されているセッションプレイヤーの宇田隆志。 ディレクター田中紘治の趣味か、60年代末期プログレ前夜のGS、サイケ、アートロックを上手い事アイドル歌謡とミックスさせたものだと感心した。 デジタルな効果音も単なる懐古趣味に陥らないバランス感覚があるし、メロトロンサウンド目当てに聴いても損はしないと思う。 それにしてもこれ以上歌が上手くなってはイケナイね、らしさが消えちゃうもの。

2014年6月22日
メダモイル
「MEDAMOIL/イロドリメグル」(2014年 JAPAN)

 2008年結成、Vo、Gの藤田剛、Baの村上潤次、Syn、Mellotronの北側晋也からなるメダモイルの1stアルバム。 いわゆるオルタナ、グランジ系のエッジの効いたバンドサウンドに、キーボードの北側晋也が奏でるエレクトロニカルなシンセと執拗にねじ込まれるメロトロンサウンドが新鮮。 1曲目「Monochrome」の間奏からMellotron Fluteが登場して以降、全10曲中8曲でメロトロン弾きっぱなし。 しかしながらそれだけにとどまらないバランス感覚に好感が持てる。 J-POPメインストリームのファン層からクリムゾンやアネクドテン好きのメロトロンマニアまで間違いなく楽しめる。 一聴しただけでは地味に聞こえるが、巧みな演奏に乗る翳りのあるメロディーと日本語にこだわった歌詞は光るものあり。 3曲目「Everything begins from Nothing」ではMellotron FluteにMellotron 3Violinsの猛吹雪。 中盤の3Violinsのソロにギターソロが重なる部分などもはや涙腺欠壊レベル。 4曲目「#005」の1番のサビでは3Violinsを弾いたかと思えば、2番はFluteがリズムを刻んでみたりしながらまたもや3Violinsで執られるソロパートにニヤリ。 5曲目「この狭い部屋とその窓辺に咲く花」では上下する怪しいフレーズをFluteで弾いたと思えば、3Violinsの直球勝負をした後にバリバリのシンセソロ披露。 6曲目「dejavu」では頭から3Violinsが鳴りっぱなし。 エレクトリックファンクな7曲目「Dance@13」でもピッチベンディングした3Violinsを多用。 先行リリースされていた8曲目「ホラネ」ではイントロからキーボードソロに至るまでFlute出ずっぱり。 ビートルズの苺畑やキャメルみたいな優しいFluteには思わず鳥肌。 こんなにメロトロンソロを弾きまくるバンドも珍しい...しかもヘッドバンギングしながら! 唯一のインストナンバー9曲目「独り言」でも3Violins全開。 これには初期の四人囃子みたいな雰囲気。 とにかく若さと疾走感が溢れていて一気に聴かせられるアルバム。 シャウトからファルセットまで男気溢れるヴォーカルとラウドなギター。 饒舌なリズム隊に鳴り響くメロトロン。 今時こんなに誠実で熱いロックバンドが他にあるか?

2014年4月27日
NEXT
CD&RECORD [1/11] ⇒
[2/11] [3/11] [4/11] [5/11] [6/11] [7/11] [8/11] [9/11] [10/11] [11/11] TOPへ戻る