ARTIST INDEX

■ CDS&RECORDS [2/11]
マーヤ/ホムンクルス
「MAHYA/Their SANITARIC MATERNITIES Request」(2013年 JAPAN/画像左)

 Odd Rock Band マーヤ。 2008年7月シルバーエレファントのライヴで衝撃を受けて以来、ジャパニーズプログレッシヴロックまたはメロトロンバンドとして待望の新作が登場。 一部の音源は2013年5月にCrawdaddy Clubで行われた音楽イベント「フルテンdeナイト 第2夜 メロトロン」で凄まじいメロトロンサウンドを聴かせていたから、このリリースまで本当に待ち遠しかった。 このバンドは自らOdd Rock Bandと名乗っている通り、強い雑食性で奇妙なロックを聴かせるのだが、いわゆるプログレやチェンバーなどを好む方なら大いに気に入る事は間違いないと思う。 また、高い演奏力とセンスの良いアレンジで、荒削りで要素の多い楽曲も散らからずにまとめてしまう不思議さがある。 前述のシルエレでのインプロヴィゼーション音源を含み、思いのほかポップな楽曲まで自在に並べたこのアルバムはキングクリムゾンの「太陽と戦慄」や「暗黒の世界」あたりと重なる印象です。 T-4「Crazy Sun」ではMellotron 400SM(#1270)の3Violinsを大量使用し、苺畑を下敷きにしたサイケデリックポップを聴かせます。 またこの録音の生々しさが素晴らしい。 T-7「Real Hallucination」では、流麗なアコースティックギターに導かれピンクフロイドや四人囃子を思わせるブルージーさの上に、血しぶきが飛び散るほど強烈なMellotron 3ViolinsとFluteサウンドが炸裂。 昨今薄味のメロトロンサウンドが多いとお嘆きの貴兄には是非聴いていただきたい。(酒のCM風に...。) 「スペースオディティ」や「宮殿」の幻影に重ねる秀逸な日本語歌詞も良い。 もしプログレリバイバルブームの90年代にこの作品がリリースされていたら「名盤」、プログレリアルタイムの60年代末期〜70年代にリリースされていたら「伝説」。 アナログメロトロンの存在意義を再認識させる重要作品。 メロトロンの音が割れてるじゃん、激し過ぎるよコレは!

「HOMUNCULUS/Animata Muscaria」(2011年 JAPAN/画像右)

 以前からYBO2北村昌士と古楽器の演奏や研究などで活動していたMustapha Makino(牧野克彦)と、MAHYAのDave "DOG-FACE" Kawamura(カワムラタケヒデ)2人のハーディーガーディー奏者によるデビュー作。 海外でもMOTISなど古楽器演奏をベースにしてプログレッシヴロックへ接近する形態が存在し、古くはアレアやフォーカスなどに親しんだリスナーなら自然に楽しめる音像だと思う。 Mini moogやClavinetを取り入れたエレトリックなアレンジのT-9「Branle des Chevaulx(Thoinot Arbeau:16th century)」では、Mellotron 400SMの3violinsが爽快さを演出。 11分を超える荘厳なラストトラック「Quem a Omagem da Virgin(Cantigas de Santa Maria)(Alfonso X:13th century)」では、圧倒的な存在感でMellotron 3Violinsを導入。 レスポールでのギターソロをも披露してトラディショナルミュージックの域を超える意思表示をしつつエンディング。 Mellotron演奏は双方共にカワムラタケヒデ。

2014年3月1日
スティーヴン・ウィルソン
「Steven Wilson/The Raven that Refused To Sing」(2013年 UK)

 Robert Frippが所有するMellotron Mark II(クリムゾンキングの宮殿で使用された通称:宮殿トロン)を全曲で使用したとされる作品。 以前Streetly Electronicsでレストアされた、これこそ伝説のメロトロンが2013年に一体どんな音を発するのか非常に気になる一作。 1曲目「Luminol」が始まるとツーバスを連打する現代的なドラムに導かれ、Mellotron 3Violinsが満を持しての登場。 予想より軽い音に拍子抜けしつつ、Jakkoの素晴らしい歌唱を挟んでMellotron Fluteから3Violinsの流れ。 穏やかな雰囲気の2曲目「Drive Home」では、Mellotron Fluteが生ギターのアルペジオと絡む。 ストリングスはロンドンセッションオーケストラの生弦が使用されている。 このあたりの流れにはうっすらと「宮殿」のテンプレートが存在しているのを感じる。 3曲目「The Holy Drinker」では暴れるサックスとMellotron 3ViolinsにChoirが登場し、Fluteのソロを挟みChoirでエンディングを迎える。 ちなみにオリジナルのMellotron Mark IIにChoir音源は備わっていないので、リペアされた際にChoirを含む新しいテープを組み込んだか、デジタルサンプル音源が使用されているという認識でよろしいか? この辺りの雰囲気はクリムゾンの「Lizard」あたりを想起させる。 4曲目の「The Pin Drop」ではこれまたクリアな3Violinsが、5曲目「The Watchmaker」ではリアルなメロトロンらしい比較的アタックの強い3Violinsの音が堪能できる。 このあたりのコーラスワークなどはイエスの1stアルバムのような清々しさを感じる。 6曲目タイトルトラック「The Raven that Refused to Sing」では、大々的に生のストリングスが使用されていて、私の耳ではMellotronの音源は聴き取れなかった。 元々プロデューサーとしても活躍するSteven Wilsonの作品を(アシスタント)プロデュースをするのがAlan Parsonsなのだから、全体的に均衡がとれているのだろうと予想していても、メロディやアレンジに破綻が無さ過ぎる。 俗に言うメロトロンの洪水とか、歴代メロトロンアルバムの幻想を重ね合わせようとすると大いに肩すかしを食らう。 ここはメロトロンの事を忘れて素直に楽しむべき作品。

2013年5月25日
ももいろクローバーZ
「ももいろクローバーZ/5th Dimension」(2013年 JAPAN/画像左)

 今をときめく週末ヒロイン(高城れにさんは毎日ヒロインですね)ももクロの最新作。 早速アルバムを再生すればPFM「甦る世界」と間違えたかと思うような荘厳なコーラスとオーケストラに仰天。 数多のアイドル群から頭一つ抜けたという次元ではなくもはや独自の世界に辿り着いてしまったようです。 ゴシック、グラム、ラップ、ファンク、ソウル、テクノ、ジャズ、なんでもござれのごった煮を受け入れる寛容さにはバックを固める作家陣も力が入るでしょう。 全曲あっけらかんとしたフェイク感満載の中、問題の8曲目「月と銀紙飛行船」では苺畑よろしくMellotron Fluteに始まり、Mellotron Choirを加えてTHE BEATLESやQUEENのエッセンスを前面に出したブリティッシュロックテイスト。 これは紛れもなく永井ルイ節。 Mellotron Fluteのロングトーンが途切れて終わるエンディングは、鍵盤を押したまま電源を切った音かと思いましたが、Fluteの出音が終わるまで鍵盤を押し続けた音と思われます。 アルバム全体を通してアイドル歌謡にありがちな展開や甘いメロディの安売りが一切無いアレンジの妙味が実に楽しい。

「ももいろクローバーZ/Battle and Romance」(2011年 JAPAN/画像右)

 1stアルバムのジャケはTHE BEATLES「Meet The Beatles」やKING CRIMSON「Red」のアレですね。 3曲目「ミライボウル」では、終盤Mellotron Stringsを思わせる音が出てハッとさせられたり、5曲目「ピンキージョーンズ」の中盤にはMellotron Choirみたいな音が出てきたりして...前作にもその萌芽が。 めまぐるしい展開にネタ切れの瞬間が無く、よくもまあここまで作り込んだものだと感心するばかり。 なんかこうとにかく売れたいとか言う下心を感じない純粋さと音楽的冒険心に好感。

2013年4月9日
インドネシアのメロトロンロック
「HARRY SABAR FRIENDS/Lentera」(1979年 INDONESIA)

 いつも貴重な音源を提供してくださるyes.t氏より、インドネシアプログレッシヴロックの名盤が届いているのでまずはこの作品からご紹介させていただきます。 ハイトーンヴォーカルのシンガーHarry Sabarと70年代からインドネシアプログレッシヴロックを支えてきたNasution兄弟らのカセットテープ作品。 タイトルトラックの1曲目「Rentera」のド頭からMellotron Choir、Mellotron 3Violinsが炸裂する美旋律ロック。 キーボードのDebby Nasutionが弾くピアノの流麗さはGENESISのTony Banksを彷彿とさせます。 しかしながらアルバム全体は湿ったブリティッシュ指向ではなく、カラリと乾いたイタリアンロックの明るさがあります。 2曲目「Kara Daun Berguguran」でもMellotron 3Violins、Choirが多用され、上昇志向の曲調と相まってかなり胸にグッとくる場面展開が続きます。 少しポップな印象の3曲目「Kitaran Warsa」ではMellotron Brassの分厚い音がバッキングのメインを飾ります。 時折バロック風味のフレーズが出てくるのが面白く、単なるポップソングに終わらせないアレンジの上手さを感じます。 波音に導かれ、キーボード、ギターシーケンスをバックに流れるMellotron 3Violinsが美しい4曲目「Lazuardi」は、穏やかな水面を連想させるこれまた美しい曲。 5曲目「Kamarin Dan Hari Ini」は一転オランダのFOCUSかと思うようなクラシカルなギターイントロで始まり、これまたMellotron 3Violinsが多用されます。 終盤に向かいMellotron Choirが使用される上昇展開はプログレファンなら間違いなく感涙するはず。 メンバーが4人から3人になる時代のGENESISのアンサンブルに近い印象もあり、時期的にも参考にしたと思われます。 6曲目「Terbenci Tapi」ではMellotron Choirが使用されるのですが、かなりピッチが高いので何か速度調整のような事をしたのかもしれません。 作品全体の統一感を持たせようとしているのか、10曲目アルバム最後にも今一度この音が使用されています。 アルバムを通してミドルテンポの曲が多く成熟した印象で陳腐さは皆無。 初めて触れるインドネシアロックの作品として素晴らしい入口であったと確信します。 生命力溢れるイタリアンロックの華やかさと気品がこんなところにも派生していったとは思ってもいませんでした。 今さら私が言うまでもない傑作。

資料提供 yes.t氏

2011年8月13日
ドロロンえん魔くん
「O.S.T./懐かしのミュージッククリップ33 ドロロンえん魔くん」(1997年 JAPAN)

 1973年10月4日からフジテレビ系で全25話放映された、永井豪原作の妖怪アニメーション。 小林亜星作曲、中山千夏が作詞と歌を担当したオープニングテーマ、エンディングテーマはもちろんの事、BGMコレクションと称して貴重な劇伴が収録されています。 6曲目「BGMコレクション1」(メドレーのうちのB-5)ではちょっとしたジャズのフリーセッションのようなものをベースにしながら、全編Mellotron Choirが覆い尽くすという怪奇ムード。 またイヤなタイミングでシタールがビヨンビヨ〜ンと効果を上げています。 続く「BGMコレクション2 」(メドレーのうちのI-2)では、ギターのアルペジオをバックにちょっと寂しげなMellotron Choirが登場。 J-3ではもう天へ召されるような神々しいMellotron Choirのアンサンブルを聴くことができます。 このアルファベットと数字の曲名というか管理番号はすべて連続しておらず、このCDに収録されていないものも多数あるようです。 実際、テレビ本編で多用されてよく耳にしたMellotron Choirのみの怖い効果音は収録されていないように思いました。 BGMの担当はCMソングやアニメ・特撮ものの劇伴を多く手がけてきた筒井広志で、小林亜星と同じ音楽事務所アストロミュージックの所属。 小林亜星さんはメロトロンを所有されていたそうなので、もしかするとこの音源は亜星さんのメロトロンで録音されたかもしれません。 1973年、メロトロンをいち早く入手した亜星さんは筒井さんに「メロトロンはホラー映画の伴奏にピッタリだよ」と勧めたかどうかは定かではありませんが、その選択に間違いは無いでしょう。

2011年4月24日
Mellodrama
「V.A./Mellodrama The Mellotron Music」(2010年 USA/SWEDEN)

 メロトロン誕生の奇跡を追ったドキュメンタリー映画「Mellodrama」(2009年/アメリカ映画 邦題:メロトロン・レジェンド)のサウンドトラック集。 DVDをご覧になって思いのほか良いBGMが気になった方もいらっしゃると思いますが、私もその一人。 THE MOOG COOKBOOKのBrian Kehewや、ANGLAGARDのMattias Olssonの楽曲を中心に、チェンバリンと言うかテーププレイバックキーボードの生みの親であるHarry Chamberlinの発掘音源や、バイロトロン開発者のDave Biroの作品など、全15曲がまとめられたメロトロンマニア必携の1枚。 一般的には扱いにくいフレーズサンプリングやソロヴォイスを、Chamberlin Rhythmateの古めかしいリズムトラックと組み合わせた1曲目、Mattias Olsson「Welcome」から濃厚なチェンバリン、メロトロンソングが並びます。 続く2曲目はHarry Chamberlin自らChamberlin Rivieraを紹介するデモンストレーション音源。 Rivieraと言えば馬蹄形の豪華な筐体に、2列2段鍵盤と足鍵盤まで揃えたいわゆる5マニュアル型フラッグシップで、こんなプロモーション音源が存在したことには驚く他ありません。 Michael Penn(俳優Sean Pennの実兄)は名曲「Long Way Down」をリメイクして収録。 憂いのあるメロディに重ねるスライドギターのようなPatrick WarrenのChamberlinプレイはやはり神懸かっています。 Chamberlinのキーボードソロが待ち遠しい曲なんてそうそうあるものではありません。 Dave Biro「A Space Oddity」はもちろんBirotron B90を使用した作品と思われますが、70年代末期に多かったポリシンセもどきのような使用方法ではなく、テープ再生の味を前面に出した良作です。 BIGELFは「The Evils of Rock and Roll」を収録。 改めて多種のメロトロンサウンドを盛り込んだ楽曲である事が再認識出来ます。 Optiganの製作指揮を執っていたJonny Largoのデモンストレーション音源「Make Your Own Kind of Music」までも収録されていて、こちらも大変貴重且つユニークな内容。 とにかく15曲どれも素晴らしく、映像よりも先にリリースされていても大きな話題となり得たでしょう。 ミッドセンチュリーやスペースエイジなどと呼ばれる「来なかった未来像」も垣間見え、その筋の方にもアピールするオシャレさも兼ね備えています。 プロデュースは映画監督のDianna DilworthとBrian Kehewの両名。

2010年12月31日
キャロル
「キャロル/涙のテディー・ボーイ」(1975年 JAPAN/画像左)

 1975年リリースの33回転コンパクト盤。 キャロルが主題歌を担当しゲスト出演したスケバン映画「番格ロック」(東映 1974年)主題歌「番格ロックのテーマ」と、挿入歌にもなったヒット曲「ルイジアンナ」(1972年)、「ファンキー・モンキー・ベイビー」(1973年)、ジョニー大倉不在時のシングル「涙のテディー・ボーイ」(1974年)の4曲を収録。 大野克夫が編曲する「涙のテディー・ボーイ」はバロック調のチェンバロと分厚いコーラスワークで始まる凝った作品。シンプルなロックンロールをベースにしながらも、 転調部分でMellotron 3Violinsを使用したりと妙に品のあるアレンジになっています。 「番格ロックのテーマ」でも冒頭からチェンバロとMellotron 3violinsがメインテーマを牽引するワルツベースのバラード。 こちらにはクレジットがありませんが楽器構成が「涙の・・」と同じですので、アレンジとキーボードは大野克夫さんでしょう。 行き場の無い若さや青春の閉塞感などと言った雰囲気をMellotronが哀愁たっぷりに表現する良作。

2010年10月31日
岡崎友紀
「岡崎友紀/ライヴ!岡崎友紀マイ・コンサート」(1974年 JAPAN/画像左)

 コミカルな大ヒットドラマTBS「おくさまは18歳」シリーズで人気絶頂のアイドル岡崎友紀。 1974年12月7日郵便貯金ホールの1stコンサートを収録した実況録音盤。 メロトロンマニアにとって音楽担当のクレジットが宮川泰と深町純であればチェックしたくなる作品です。 開演を知らせるブザーと観客の拍手で始まる1曲目は、井上陽水のカバー「心もよう」です。 オリジナルでもキーボードを担当した深町純は意表を突くタイミングでMellotron 8Voice Choirを使用し、不穏な空気感を演出します。 フェイザーで揺らめくストリングスキーボード(Solinaか?)にMellotron 8Voice Choirを加え、ハードなClavinetとワウギター、そこへホーンセクションが重なるアレンジは、アイドルにとってかなり濃いめのロックアレンジであったと思います。 その後持ち歌のメドレーを終え、得意とするミュージカル形式のステージ(ナレーションは寺尾聡)をはさみ、終盤は海外のポピュラーソングを自ら日本語訳(高木飛鳥名義)したものを歌って終演。 バンド演奏はビート・オブ・パワー名義で、Mellotronの使用は冒頭1曲のみ。 あの部分だけの為にMellotronを並べたか、レコードに収録できなかった部分にはMellotronの更なる使用があるのか気になるところ。

(画像右/バックのキーボードブースに見える白いMellotron M400S)

2010年10月30日
BIGELF
 先頃、4thアルバム「Cheat The Gallows」の日本盤「鍵盤狂想曲 第1番:ビッグエルフ」(ボーナストラック3曲入り!)が正式にリリース決定され、SUMMER SONIC 2010出演での初来日もアナウンスされるなど、ようやく、ようやく、ようやく...アッパーグラウンドへ浮上するきっかけを掴んだ我らがBIGELF。 DREAM THEATERらと帯同したツアーの成功とバックアップを受け、今年は彼らにとって重要な年になりそうです。

デビュー作の「Closer To Doom」(1996年)、2ndアルバム「Money Machine」(2000年)共、輸入盤に帯と日本語解説を追加する形で日本盤を発売し、いち早く紹介したディスクユニオンの先見の明は最大限に評価されるべきでしょう。 そして最初に飛びついたのは、やはりMellotronやHammondのサウンドが大好物なプログレコミュニティの面々と、ごく一部のハードロックファンでした。 その後ライヴアルバム「Goatbridge Palace」(2001年)を挟み、大手のワーナー(スウェーデン)と契約しての3rdアルバム「HEX」。 今度こそ正式に日本盤が配給されるものと思いきやリリースは無く、残念ながらディスクユニオンまでも力尽きるという実情。 メディアにもほとんど紹介される事も無く、我々コアなファンですら新作を入手するのにも右往左往する始末。(当時はアマゾンにも無かった!) 「BIGELFって何で売れないんだろう?」と言うのがファンの間の口癖になっていました。

「BIGELF/HEX」(2003年 USA/画像左)

 IIの字にセットしたMellotronのDamon Foxを中心に、ギターのAceとレフティのベースDuffyが左右に控え、後方にドラムスのFrothが構えるシンメトリーなロック曼荼羅。 そんな神々しいヴィジュアルが印象的なPVだった
「Madhatter」でアルバムは幕を開けます。 ヴォーカルとユニゾンで弾き倒される濃密なMellotronには、メロトロンマニアならずとも即死間違い無し。 1stアルバムから変わらぬメロディセンスは、単なる懐古主義バンドとは言い切れない独自性が表れていて、ここまでの3作品の中でも高めに感じられる湿度とメロウさで、ファン層を広げる好材料を揃えています。 6曲目「Sunshine Suicide」などの超ポップな面を見せても陳腐にならないのが彼らの引き出しの多さを物語ります。 11曲目「Bats In The Belfly I」では「宮殿」や「苺畑」までもが飛び出しますが、それだけに頼った一本調子に落ち入らない複雑な曲展開が楽しめます。 シンセサイザーやヴォコーダーが積極的に導入されていたりするのは新境地。 アルバム全域に発令されるMellotron濁流警報の中、ハードロックのパワーとポップな洗練がひしめく絶妙なバランスの必聴盤。

「BIGELF/Cheat The Gallows」(2008年 USA/画像右)

 2007年4月、元4NON BLONDSのLinda Perry率いるCustard Recordsと正式契約した彼ら。 James BluntやBen Jelenも所属する気鋭のレーベルながら大手ではない不安感は、アルバムリリースから2年も待たなければ注目されないという結果に繋がった。 大手のレコード会社は四十路の新人ロッカーには冷たい事は良くわかったのだが、それにしてもこの遅咲き具合には泣き笑いするしかない。 作曲の方向性はそれまでと大きな変化は無く、いわゆるBIGELF節全開なのですが、相変わらず凄い物量のMellotronに加え、生のストリングスを導入したおかげで、噎せ返るほどの音圧を感じる作品となっています。 「ヴィンテージロック野郎ハリウッドへ行く」と言った風情のギラギラしたゴージャスさは、グラムロックへの接近を感じさせ、以前よりもスタジオワークに時間を割いた緻密さは、THE BEATLES「Sgt Pepper's・・」の匂いまで漂わせています。 70年代ロックを今に復刻するだけではない、いわゆるエンターテイメント性をここまで出してきた事には、不遇の時代の鬱憤を晴らすかのような開き直りすら感じます。 そして、プログレやヘヴィメタルなどのレッテルを剥がして垣根を越えようとする意図が感じられ、今や門戸はかなりの広角度で開いているように見えます。 ロックファン万人の耳に敵う作品となりえたか、ここが正念場。 大ファンの一人として幸運を祈る!

2010年3月27日
Manetron
「ぃどう/寒いくつ」(2010年 JAPAN)

 2000年から活動しているヘヴィロックトリオ「ふろヰ堂」の別動隊デビュー作。 女性ヴォーカルとフィールドレコーディングプレイヤーを加えた5人編成で、PINK FLOYD、四人囃子、はたまたEnoのアンビエントミュージックにも接近するサイケデリックフォークを聴かせてくれます。 1曲目「はじまり」では、幻想的なアコースティックギターに導かれる中を、Apple iPhone、iPod Touchのメロトロンアプリ「Manetron」の3Violinsが鳴り響きます。 柔らかいアコギの音色を硬めのメロトロンサウンドがスーッとかきわける様子はたまらなく爽快。 もしかするとマネトロン初のCD作品となるのではないでしょうか? Watanabeさんのクレジットが無ければ、まさかManetronとは誰も気づかないでしょう。 某有名ラック音源よりも良いかもしれないと言ったら言い過ぎか? いや、そうでもないぞこれは。 アルバム全体は70年代の日活(にっかつ)やATG映画のサントラにはまる様な雰囲気(ヴォーカルが入ると尚更)で、ちょっとけだるい昭和の匂いが心地よかったりします。 入手先は
こちら

2010年3月8日
モーヴサイドショウ
「MAUVE SIDESHOW/Mauve Sideshow」(1993年 USA)

 Vocal、ElectronicsのTreva Deaと、Mellotron、Sound CollageのDusty Leeのサイケデリックノイズユニット。 本作はそれまでにリリースしていたアナログ2作品からと新曲1曲をコンパイルしたもの。 様々な電子音と祈りのような女性ヴォーカルが延々とフラッシュバックする作風は、音量、定位ともに不安定で、精神的な不安を煽るダウナーさは死臭が漂うほど強烈。 ある意味ふわふわした音触に睡眠導入盤としての効果を求めるも、悪夢にうなされ続け安眠は不可能。 「Beneath the Rose」冒頭から使用されるMellotron Cello、3Violins、「Hide in the Rain」「Stray Apparitions」の3Violinsで垣間見せるMellotronの邪悪さは身の毛もよだつほど。 しかしこのつかみどころの無い不穏なサウンドコラージュには、繰り返し聴きたくなる中毒性あり。 死の淵が透けて見えるような薄暗さはまさしくMellotronの真骨頂であり、他の電子楽器には表現できない世界があります。

2010年3月7日
ハービー・ハンコック
「Herbie Hancock/Head Hunters」(1974年 USA)

 マイルス学校卒業生Herbie Hancock、1974年の出世作。 楽器クレジットに記載はありませんが、アルバムラストの「Vein Melter」の中盤に、Mellotron 3ViolinsとMellotron Fluteの使用が明らかに確認できます。 他の鍵盤楽器のクレジットが並ぶ中、Mellotronだけ無いと言う例は他のアーティストにも多く見られます。 単なる記入漏れである場合、またはMellotronがまともな鍵盤楽器として扱われておらず、SEなどのその他の音源としてクレジットするに値しない扱いなのか、実際のところは不明です。 まあ黙って演奏を聴けばいいじゃないかと我ながら思いますが、メロトロンマニアとしては気になりますね。

2010年3月7日
ラブ サイケデリコ
「LOVE PSYCHEDELICO/THE GREATEST HITS」(2001年 JAPAN)

 男女デュオのデビュー作にしてミリオンセラーアルバム。 達者な発音の英語ヴォーカルに、埃臭いアーシーなサウンド、そしてあまり金の臭いを感じさせないところに、妙な本物感があります。 70年代ロックど真ん中なアレンジにはMellotronがマッチするかと思うのですが、湿ったブリティッシュロック系ではないので、怪しい音色は3曲目「Last Smile」のMellotron Fluteワンノートぐらいなものでしょうか。 サポートメンバーにはヴィンテージキーボードに詳しい堀江博久さんがいるようなので、乾いた曲調にも合うChamberlinをそのうちに使ってもらいたいものです。

2010年3月7日
翡翠の里、糸魚川
「ラベンダーヒスイ/天界」(2007年 JAPAN/画像左)
「ラベンダーヒスイ/若葉薫るころ」(2008年 JAPAN/画像中)
「ラベンダーヒスイ/春のときめき」(2009年 JAPAN/画像右)

 アマチュア写真家のフォトCD-ROMのジャケットではありません。 れっきとした音楽作品集で、
こちら で販売(試聴可能)もされているインディーズアーティストのアルバムです。 ジャケット、レーベル写真から作曲演奏録音まで一人でこなした作品は、3作共に大きな作風の変化は無く、Mike OldfieldやGandalfを想起させるドリーミーでピースフルな内容。 SEのさざ波や川の音まで独自に録音したという凝りように加え、ここまでM-TronのMellotronサウンドを徹底的に使用した作品はあまり例の無いものでしょう。ほとんどの曲で、曲調、アレンジのいかんにかかわらず、隙あらば迷う事無くMellotron StringsやChoirを徹底して使用。 ほのぼのとした作風と執拗に使用されるMellotronのコントラストには、一切の邪気が感じられず、痛快さを越えて良い意味で恐ろしさすら感じます。

2010年3月6日
プレゼンス・オブ・ソウル
「PRESENCE OF SOUL/Blinds」(2008年 JAPAN)

 巨大通販サイトでの「08年のメロトロン含有量トップクラスの傑作」なる、どこかで聞いた事あるような推薦コメントに釣られて入手。 アルバム冒頭から、ギターの音色やMellotronサウンド(恐らくM-Tron or Memotron)にモロなANEKDOTENコンプレックスを感じさせます。 静寂と轟音の緩急こそ大きいのですが、 メロディや曲展開が乏しく全体に煮え切らない雰囲気。 セールスポイントであるMellotronサウンドは、強めに掛けられたリバーブとマンドリン奏法の轟音ギターに隠れてかなり平板。 過度に期待して聴いたため少々肩すかしを食らった感あり。 Mellotronサウンドを生かすアレンジに拘るならば、もうひと捻りの何かが欲しかった。 今後に期待したい。

2010年2月28日
らき☆すた
「V.A./もってけ!セーラーふく Re-Mix001 -7burning Remixers-」(2007年 JAPAN)

 アキバ系人気アニメーション「らき☆すた」オープニングテーマのリミックスを7曲収めたミニアルバム。 私はこのアニメーション自体見た事が無いし、原曲すら知らないのだが、恐らく原型をとどめないほどいじくり倒されたであろう曲が並んでいる事がわかる。 [グルコサミっくす]と副題の付いた問題の5曲目には、THE KINKS「Phenomenal Cat」(1968年)や、YES「Lightning Strikes」(1999年)でおなじみの、Mellotron Mark IIのリズム音源「Cha Cha:Swinging Flutes」(M-TronまたはMellotron Archives CD-ROM)が終始鳴り続ける。 肝心の内容はメロトロンのリズムをバックに登場人物とおぼしき声優陣が、たわいないトークを繰り広げるものだが、コミカルなリズムトラックの選択はあながち間違ってはいない気がした。 メロトロンもついにここまで来てしまったかと、いろいろな意味で感慨深い。

資料提供 buchi氏

2009年12月31日
寺内タケシ
「寺内タケシ/華麗なる寺内タケシの世界II 愛のテーマ」(1974年 JAPAN)

 最近テリーと言えばテリー伊藤ですが、私が子供の頃はドリーとセットでプロレスラーを指していた。 更に世代をさかのぼってテリーと言えばやはりこの人となるでしょうか。 寺内タケシ名義の作品ですが、宮川泰アレンジによるヒットポップス集に寺内が客演した作品と言っても良いでしょう。 ルーパス・グランド・オーケストラと名付けられたバンドメンバーには、深町純、猪俣猛、水谷公生らセッションプレイヤーの名手達がずらりと顔を並べています。 ストリングスやフルートは生が使用されていますのでMellotronの使用はありませんが、「明日に架ける橋」「007/ロシアより愛をこめて」「慕情」「ヘイ・ジュード」には不在のコーラス隊に代わり、Mellotron Choirが堂々と使用されています。 「Mellotoron」(oが一個多い)のクレジットは宮川泰本人。 安上がりのコーラス隊にしてはあまりに存在感がありすぎます。 しかもBEATLES「Hey Jude」がこんなところでMellotronに出会うとは、レノン・マッカートニーも夢にも思わなかったでしょう。 ちなみにアルバムタイトルの英語表記は「THE BRILLIANT DIMENSION OF TERRY 2」って、すげーカッコイイじゃん。

2009年12月19日
演歌の旅
「メロトロンズ/演歌の旅 函館から長崎まで」(1973年 JAPAN)

 アレンジャー小谷充率いるメロトロンズ渾身の一作は、以前ここでご紹介した
アレの完全版。 1973年に早々とMellotron M400Sを導入したビクタースタジオが、Mellotronの可能性を試した実験的アルバムだったと思われます。 まだカラオケと言う言葉が一般的ではなかった頃のいわゆる「歌のない歌謡曲」12曲を収録したレコードで、金髪のおねえさまが微笑むエロジャケもナイスです。 ボーカルパートの主旋律をMellotronがなぞってみたり、ソロを執ってみたり、Mellotron Flute、3Violins、8Voice Choirを駆使してメロトロンマニアが卒倒するようなフレーズを連発しています。 酒臭いムードたっぷりのサックスや、安っぽいチャカチャカしたギターカッティングを横目に唸りを上げるMellotronサウンドは異様としか言いようがありません。 プログレやポップスに使用されるMellotronはもう当たり前ですが、このミスマッチ感覚こそプログレッシヴと言えましょう。 ド頭からMellotron 3Violinsが飛び出すサブちゃんの大ヒット曲「函館の女」からアルバムは始まり、内山田洋とクールファイブのヒット曲「そして、神戸」のバックコーラス(ワ、ワ、ワ、ワ〜♪)がMellotron 8Voice Choirで再現され、「京都の夜」では恐らく歌謡史上最速のフレーズで演奏されるMellotron Fluteのソロでエンディングを迎えます。 「新宿の女」の上品なMellotron Fluteアレンジは本当に素晴らしいし、シンフォニックな「長崎ブルース」のエンディングにはそれまで隠しておいたかのようにMellotron Celloまで使用されます。 収録曲は以下の通り「函館の女」「柳ヶ瀬ブルース」「そして、神戸」「京都の夜」「新宿の女」「川反ブルース」「よこはま・たそがれ」「新地ワルツ」「長崎ブルース」「赤坂の夜は更けて」「新潟ブルース」「札幌ブルース」。 CD化を望みます。

2009年11月15日
Melloman
「Tara Busch/Pilfershire Lane」(2009年 USA)

 デビュー前から玄人受けする活動で知られていた、SSWでマルチプレイヤーTara Buschの1stアルバム。 1曲目からレトロフューチャー感たっぷりなエレエクトリックポップを披露します。 Kate BushやBjorkを引き合いに出しても遜色のないオリジナリティとエキセントリックさ...この人は数少ない本物のアーティストでしょう。 各種アナログシンセサイザー、コンボオルガン、ヴォコーダーなどがずらりと並んだクレジットを眺めると、Mellomanの文字が。 えーっとメロマン、メロマン、そうだ! Mike WaltersがWALKMAN(もちろんカセットテープの)を連結改造したMellotronエミュレーターだ。 Memotronの登場で記憶の縁に置かれていたけど、磁気テープを使ったメロトロン直系の力作。 そしてMikeはTara Busch(バンド)のキーボーディストでもある。 また、この楽器製作の為にメロトロンのサンプル音源を提供したのは、同じくギターとベースを担当するAlex Maioloなのだから、この楽器マニアックさは抜かりない。 少なくとも6曲にはMelloman Fluteが使用されていて、BrassやChimeなどの疑わしい音源も含めると、かなり高いメロマン度を示します。 特にアルバムタイトルトラックからメドレーでつながる「Pilfershire Lane/Simsbury 1978」の流れは、苺畑から宮殿まで内包するプログレッシヴな内容でその筋のマニアを唸らせることは間違いないでしょう。 そして「Superfriends/St.George」にはMelloman Fluteに加え、Optiganのリズムトラックまで使用されるダメ押しも出る始末。 やはりヘッドと音源テープが擦れる事が重要なのだと再認識させるかのような、ある意味メロトロン哲学的な問題作。 MellomanのクレジットはTaraとMikeの二人。

2009年9月21日
ミラクルシャドウ
「MIRACLE SHADOW/こじれたふたり」(1997年 JAPAN/画像左)

 キャッチーなメロディを、アナログ感たっぷりなサウンドで聴かせる3人組ポップバンドのデビューシングル。 メロトロンユーザーとしても有名なリーダーの安田しんじ(ミラクルタロウ)のクレジットにはMellotronが列記され、イントロにはMellotron Fluteの苺畑、間奏には逆回転されたMellotron Cello、続いてMellotron 3Violinsまでもが登場します。 う〜む、私の耳にはMellotron ArchivesのCD-ROMに聴こえます。 レコーディング時にMellotronの調子が悪かったのか? 元CLASSの津久井克行がゲストヴォーカルをとるカップリングのシカゴ「クエスチョンズ67&68」は、北山修の日本語歌詞で収録というマニアックさ。

「MIRACLE SHADOW/元気を出しなさい」(1997年 JAPAN/画像中)

 二胡の響きが印象的なカップリング「時の流れに身をまかせ」では、間奏に一瞬だけMellotron 3Violinsが顔を出します。 続く3rdシングルはSMAPがカバーした「朝日を見に行こうよ」で、カップリングはFOCUS「ホーカスポーカス」という、これまたマニアックな選曲。

「MIRACLE SHADOW/奇跡の影」(1997年 JAPAN/画像右)

 ミラクルシャドウ唯一のフルアルバム。 BEATLESやBEACH BOYSなどの普遍的ポップセンスに、ほんのりサイケ、プログレフレーバーをまぶした王道ポップ作品。 54種もの使用楽器を写真入りで掲載したブックレットのマニアックさで、否応無く期待は膨らみます。 4曲目「いつまでも君を」では冒頭からMellotron 3Violinsが使用され、途中からL側にMellotron Fluteもミックスされます。 6曲目はシングルカットされた「こじれたふたり」の再レコーディングバージョン。 やはり冒頭からMellotron Fluteと3Violinsが登場。 ブラスアレンジやラジオヴォイスのヴォーカルエフェクトがKINGCRIMSON的でマニア心をくすぐります。 Phil Spector風な7曲目「君がそんな奴だったなんて」でも、冒頭からMellotron 3Violinsを使用。 続く「青い東京タワー」でもMellotron 3Violinsが活躍。 10曲目「夜遊びの達人」でもドアタマからMellotron Flute、サビにはMellotron 3Violinsが使用されていますが...私の耳には全てサンプラー(前述のCD-ROM)に聴こえます。 もっともリアルに聴こえる(ローファイにエフェクトされている)のは8曲目の「青い東京タワー」ですが、これもどうでしょうか。 しかし、このアルバムで重要なのは、骨太で甘いメロディと暖かみのあるポップアレンジ(やはりヴィンテージ楽器は良いですね)、そしてハスキーで表現力豊かなタロウさんのヴォーカル。 サーフィンからアバン・ギャルドまで全11曲、ミラクルシャドウの「ホワイトアルバム」と言ったら言い過ぎか? いやいやこれは一聴の価値ある名盤です。

2009年8月18日
山崎まさよし関連
「山崎まさよし/HOME」(1997年 JAPAN/画像左)

 後にSMAPへ提供する「セロリ」などを収録した2ndアルバム。 自身の主演映画「月とキャベツ」主題歌となったヒット曲「One more time,One more chance」では、苺畑よろしくMellotron Flute(ラック音源、またはサンプル)がリズムを刻みます。 勢いストリングスもMellotron風に聴こえますが、これは生ストリングス。 Moog、Hammond、Wurlitzerなど詳細にキーボードクレジットが記載されるブックレットには、Mellotronの記述はありません。

「元ちとせ/ハイヌミカゼ」(2002年 JAPAN/画像右)

 奄美の民謡をベースにした独自の歌唱を披露するメジャーデビュー盤。 プロデューサー陣が、いわゆるワールドミュージック的なアプローチをする中「ひかる・かいがら」1曲だけ苺畑なアレンジをしてしまうのが、事務所の先輩である山崎まさよし。 ギター、ベース、ドラムまでも自ら演奏するマルチプレイヤー振りを発揮し、イントロから間奏にいたるまでMellotron Flute(ラック音源、またはサンプル)を導入しています。 日本のJeff Lynneて、もしかして?

2009年8月17日
オールウェイズ
「ALWAYS/Always Be True」(1986年 JAPAN)

 TULIPを脱退した姫野達也(キーボード)、安部俊幸(ギター)、伊藤薫(ドラム)の3人に、新人ベーシスト風祭東を加えたバンドデビュー作。 いかにも80年代然としたリズムトラックやアレンジが現在の耳には懐かしく聴こえます。 THE BEATLESや10ccなどのエッセンスを配したポップセンスは、当時少々迷走気味だったTULIP本体よりもそれらしい印象です。 伊藤薫がリードヴォーカルをとるB面1曲目「China Moon」では、Mellotron Fluteがサビまでの助走で使用され雰囲気作りに一役買っています。 年代を考慮するとEmulatorなどが使用されている可能性もあります。 さすが姫野達也と唸らせる秀逸なタイトルトラックなど、バンドの今後を期待させた良作。

2009年8月15日
メロトロンの向こう側
「ANEKDOTEN/Chapters」(2009年 SWEDEN)

 ANEKDOTEN初のベストアルバムは、近年のライヴで取り上げられる事の多い中後期ナンバーをCD1に、ミックス違いやデモなどを収めたレアトラック集をCD2にという変則的な2CD作品です。 時系列に初期からの代表曲を並べなかったことは、解散を前提とした過去の総括という訳ではなさそうだし、なによりメンバーの意図が感じられて興味深い。 CD1は、初期の複雑で屈曲したプログレッシヴ的構成から、ロックバンドのグルーヴをストレートに押し出したシンプルな構成へ変化した様子がわかります。 過剰な緊張感を感じさせるゴリゴリのプログレサウンドを卒業し、確立したアネクドテン節はこういうものだと言う表明でしょう。 近年の作品では、シンセサイザーやコンボオルガンなどを導入した「メロトロン+α」を模索してかなりの成果を上げているし、CD1ラストの新曲「When I Turn」では、引きの美学を含んだメロトロンロックの向こう側を見た気がします。 アノ曲そのままを再現してしまった「Sad Rain」(CD2の1曲目)などの手法実験に始まり、長い試行錯誤を経た結果よくここまで新しい世界を絞り出したものだと関心します。 OPETHのキーボードPer Wibergをゲストに迎え、ゆったりとしたピアノのシーケンスを軸に曲は進みます。 Mellotron Fluteを思わせるPump OrganとMellotron Stringsの凍てつき、そして映画のラストシーンのような劇的なエンディングにはメロトロンファン号泣必至。 苦悩しながらもまた一歩進んだANEKDOTENの現在が集約されたこの1曲の為だけに、アルバムを購入する価値があるでしょう。 アルバム全体のMellotronプレイヤーのクレジットは、Nicklas Barker、Anna Sofi Dahlberg、Peter Nordinsの3人。 メロトロンの向こう側には、やはりメロトロンしか無いのです。

2009年7月12日
覆面ビートルズ
「KLAATU/Klaatu」(1976年 CANADA)

 ・・・否、ビートルズの覆面バンドとの噂だったカナダのポップグループデビュー作。 似てる似て無いの論議があろうかと思いますが、十二分に似ている材料は揃っているし、ポップセンスもすこぶる良好。 1曲目「Calling Occupants Of Interplanetary Craft」から、苺畑よろしくMellotron Fluteがリズムを刻み、Mellotron 3Violins、Celloが鳴りっぱなし。 Ringoみたいなドタバタドラムに、いかにもGeorge Martinがアレンジしそうなブラスとストリングス、John(というか、息子のJulianやSeanに近い印象)のような繊細なヴォーカルからPaulっぽいものまで。 76年式らしい近代化はされているものの、枯渇したビートルズの匂いを求める欲求に耐えうる良作だと思います。 「Doctor Marvello」では、シタールや逆回転エフェクトが流れる中を、Mellotron 3Violins、Cello、Fluteがピッチベンドで暴れてみたりと大忙し。 実際はギターのDee Long、ベースのJohn Woloschuk、ドラムのTerry Draperの3人それぞれがヴォーカル、キーボード、ギターを兼任し、セルフプロデュースで完成させたのだから、才能が無いはずが無い。 デビューアルバムのオープニングナンバーからMellotronを活躍させると言う事は、THE BEATLES=Mellotron、王道ポップ=Mellotronという思惑が少なからずあったはず。 そんな事を想像しながら聴けば、ビートルズマニアだけでなく、メロトロンマニアの応援歌にも聞こえてくるから面白い。

2008年6月19日
エピタフ
「EPITAPH/Epitaph」(1971年 GERMANY/画像左)

 否応無しに目に入るバンド名とMellotronの導入で話題となった、ドイツ4人組の1st。 URIAH HEEPやDEEP PURPLEなどの影響下にあるハードロックをベースにしながら、ジャズやプログレッシヴロック的アプローチを披露しています。 注目はやはり2曲目の「Visions」で、バンド名から想像出来る通りのMellotron 3Violinsが洪水状態となります。 ドラムもMichael Gilesのような奏法になり、他のメンバーもそれらしい演奏で追随しています。 MellotronはベースのBernd Kolbeが兼任。 アルバム全体に言える事ですが、曲の展開、転調に乏しく、同じフレーズのままフェイドアウトするパターンがほとんどです。 ただ「Visions」の場合はこれが功を奏してMellotronが鳴りっぱなしなのが、メロトロンマニアにとっては喜ばしいところ。

「EPITAPH/London Town Girl」(1971年 GERMANY/画像右)

 アルバム未収録曲をA面にしたシングルで、 B面は「Visions」のシングルバージョン。 テイク違いでMellotronの音量が大きいとか話題があれば良いのですが、単に終盤の尺を1分ほど縮めただけ。 当時はこのシングルのみ本邦でリリースされました。 ジャケが良いので賑やかしに載せておきましょう。

2008年6月17日
パール・ジャム
「PEARL JAM/Vs.」(1993年 USA)

 1991年デビュー、オルタナティヴロック、グランジの旗手PEARL JAMの2ndアルバム。 多くのセッションワークでヴィンテージキーボードを弾いているBrendan O'Brienがゲストで参加。 ダークでジャングリーな「w.m.a」で、Mellotron 3Violinsの断片を忍ばせ、途中のブレイクではMellotron Celloの低音部で無気味さを加えています。

2008年6月17日
スターキャッスル
「STARCASTLE/Citadel」(1977年 USA)

 元祖YESのソックリさん、6人組アメリカンバンドの3rdアルバム。 続く4thではYESを諦めてただのポップバンドへ成り下がりますが、本作では元REO SPEEDWAGONのTerry Luttrellのハイトーンヴォーカルに、爽快なコーラスワークを始め派手なキーボードワークなど、まだまだYESらしさは健在。 よくここまでYES好きと演奏技術の高いメンツが集まったもんだと感心します。 本家と違うのは意外にMellotronを使っていない事でしょうか。 キーボードのHerb Schildtは「Evening Wind」にMellotron Choir、「Why Have They Gone」のエンディングにMellotron 3Violinsを少しだけ使用しています。 シンセとユニゾンで鳴らされるMellotronは、独特のヒスノイズで際立って聴こえてきます。

2008年6月17日
ジュリアン・ジェイ・サヴァリン
「Julian Jay Savarin/Waiters On The Dance」(1973年 UK)

 黒人SF作家でキーボーディストのJulian Jay Savarin。 そして彼の小説を音楽として具現化する為に結成されたJULIAN'S TREATMENT。 デビュー作「A Time Before This」(1970年)をリリース後メンバーチェンジを経た本作は、個人名義となった実質的2ndアルバム。 アルバム冒頭、バロック調のオルガンで幕を開けすぐさまMellotron Fluteが重なり、期待は膨らみます。 聴き進めばタイトで硬質なリズム隊に支えられた、ブリティッシュオルガンロックの典型。 女性ヴォーカルが声を張り上げれば、EARTH & FIREソックリだったりするのは御愛嬌。 1曲目「Child Of The Night 1 & 2」は「宮殿」級の派手なMellotron 3Violinsが出迎えてエンディング。 「The Death Of Aida」ではMellotron 3Violins、Brass、Fluteが鳴りっぱなし。 恐らくMellotron MARK IIでしょう、第一級の惚れ惚れする素晴らしいメロトロンサウンドが堪能出来ます。 「Dance Of The Golden Flamingoes」は、LED ZEPPELINを想起させるブルースベースのハードロック。 ここでも火を噴くオルガンそっちのけで、Mellotron 3Violins、Brassの大激流。 加えてMellotron Fluteの艶かしいソロも披露されます。 このパートのMellotron Brassが素晴らしくヨレヨレで、メロトロンマニアなら手に汗握ること間違い無しの熱演。 曲良し、演奏良し、メロトロン良し、これは本当に良い作品です。

2008年6月16日
アメリカンティアーズ
「AMERICAN TEARS/Branded Bad」(1973年 USA)

 キーボーディストMark Mangoldを中心としたトリオのデビュー作。 ギターレスの為、必然的にキーボードの出番が多く、各種鍵盤音がけっこう楽しめます。 楽曲は凡庸なロックとAOR風バラードで、Mark Mangoldが後にSTYX、BOSTONタイプのハードポップバンドTOUCHを結成するのも頷ける気がします。 「Lock And Cahin」の冒頭はMellotron 3ViolinsとChoirのミックスでしょうか、また「Pennywall」のエンディングには壮大なMellotron 3Violinsが、ピアノやオルガンに負けじと導入されています。

2008年6月16日
フレッド・フリス
「Fred Frith/Speechless」(1981年 UK)

 81年発表のソロアルバム。 A面にEtron Fou LeLoublanらとのスタジオテイクを、B面にはMASSACREのライヴを編集した作品を収録しています。 テープコラージュや様々な楽器、非楽器音の偶発的羅列は、トラッドやジャズを巻き込みスリリング且つユーモア溢れるロックとして成立しています。 「Ahead In The Sand」の冒頭、公園のブランコの金属部分が軋むような音のテープサウンドに被されるのはMellotron 3Violinsで、ストリートオルガンのようなエキゾチックさを出しています。 続く「Loughing Matter」の冒頭にもわずかにMellotronが使用されています。 同じフレーズの繰り返しを避けるFred Frithの音楽性の中で、Mellotronの登場は一瞬の出来事でした。

2008年6月16日
エアロード
「AIRLORD/Clockwork Revenge」(1977年 NEW ZEALAND)

 ニュージーランドはウェリントンで結成された5人組唯一の作品。 いわゆるGENESISタイプと分類出来るサウンドで、ヴォーカルはビックリするほどの高音ですが、演劇チックなPeter Gabrielを意識しているようです。 根底にはハードロックが流れていて、やたらと手数が多く暑苦しいフレーズが続く曲もありますが、展開部やエンディングなど要所要所にGENESISソックリの英国的陰影が散見出来ます。 キーボードのAlan Blackburnは、生のコーラスに加えて「Ladies Of The Night」で、Mellotron Choirを使用しています。

2008年6月16日
Optigan、Chilton Talentmaker、Orchestron
「Pop In Clap/V.A.」(1999年 JAPAN/画像左)

 光学式ディスク音源のOPTIGANを使用した、Rob Crow(ヴォーカル、ギター)とPea Hix(キーボード)のポップユニット、OPTIGANALLY YOURS。 彼らのサウンドに逸早く反応したのは、エレクトロニカやモンド、ラウンジといったジャンルの本場、いわゆる渋谷系でした。 そして1997年の1stアルバムを経て、日本で企画されたこのコンピレーションアルバムに新曲「Midori2tree」を提供しています。 日米混成18曲の中でもローファイ度、無国籍度、架空のサントラ度(?)いずれもダントツの出来映え。 OPTIGAN DISC「Rollin' Easy」を使用し淡々と繰り返されるリズムに挿入されるフィルインと、絶妙なコード進行がたまらなくオシャレ。 70年代幻のソフトロック発掘!と言った風情。

「OPTIGANALLY YOURS/presents:Exclusively Talentmaker!」(2000年 USA/画像右)

 OPTIGANALLY YOURSってユニットなのに、2ndアルバムは「100% Optigan-free」(オプティガン完全不使用)の表記あり...いいねえこのヒネクレ感覚。 THE MOOG COOKBOOKのBrian Kehewが貸してくれた姉妹機Chilton Talentmakerに、Vako Orchestron(どちらも光学ディスク音源)をメイン楽器として使用し、亡くなったChilton Talentmakerの開発者F.Roy Chiltonに捧げられています。 前作と大きく変化は無いものの、Orchestronのせいでしょうか少し饒舌になった印象です。 プリセットリズムとプリセットリード音に拘束されても、ここまで出来るんだと感心させられるタイムレスポップスが目白押し。 アルバムラストのシークレットトラックもお聴き逃し無く。 リズム音源を備えたMellotron MARK II直系の機能を持つ、Chilton Talentmakerの貴重な音カタログ。 S/N比の悪い音に温もりと安らぎ、そして新しさを感じる方、是非聴くべし。

2008年6月15日
リッキー・マーティン
「Ricky Martin/Ricky Martin」(1999年 USA)

 プエルトリコ出身の人気ラテンポップシンガー、Ricky Martinの出世作。 日本では郷ひろみが「ゴールドフィンガー'99」としてカバーし話題となった「Livin' La Vida Loca」や、Madonna、Mejaとのデュエット曲を含む大ヒットアルバム。 シタールを導入した「She's All I Ever Had」や、Mellotron Flute(恐らくMellotron ArchivesのサンプルCD-ROM)を忍ばせた「I'm On My Way」など、明るく脳天気なだけでなく、しっとりとした影の部分も表現されています。 「I'm On My Way」は、ラテンパーカッションとホーンセクションが活躍する派手な曲ですが、低音のMellotron Fluteが上手い隠し味になり、彼の色気を引き立てています。

2008年6月14日
金属恵比須
「貳代目金屬恵比須/紅葉狩」(2004年 JAPAN)

 GENESIS風シアトリカルバンドとして話題となった後、キーボードの高木大地を残しメンバー総入れ替した金属恵比須の2作目。 3曲入りのミニアルバムですが30分を楽に超えるエネルギッシュな演奏が延々と続きます。 本作はGENESISの残像は残るものの、帯コピーにある通りKING CRIMSONのフォロワーとして路線変更していて、大変器用にその筋の音を追い掛けています。 ANEKDOTENの影響も多分に感じさせ、キーボードの高木大地とベースの伊藤大二郎が、全曲圧倒的な質量でMellotronサウンド(Samples of Mellotronと表記された3Violins、Flute、Choir、Cello)を使用しています。 演奏やアレンジは先人達のエッセンスを上手く取り込んでおり、プログレファン、メロトロンファンを楽しませるに十二分な出来映えなのですが、妙な和テイストの歌詞と歌唱はハードな演奏と遊離していて、正直失笑を禁じ得ませんでした。(ゴメン!) BajaProg2006に出演するなど既に高い評価がある上に、これだけの作曲構成力を持っているのだから、インストで行った方が良いと思うのは私だけか。 ヨレたサンプルメロトロンは何処のCD-ROMか自家サンプルか、いずれにしても素晴らしく一聴の価値あり。

2008年6月14日
魔法陣
「魔法陣/組曲 バビロニア」(1991年 JAPAN)

 キーボードの志賀敦、ベースの岡田やすし、その後GREENやNEGASPHEREで活動する事になるドラマー菅野詩朗のキーボードトリオ。 1978年に録音され、91年にメイド・イン・ジャパン・レコードから発掘音源としてリリースされたもので、曲毎に録音品質のバラツキがかなりあります。 キャッチーなメインテーマを、アレンジを変えながら繰り返す手法はカンタベリーに近い印象で、ドイツのTRIUMVIRATの様な明るさと軽快さも持ち合わせています。 ストリングスキーボードがやたらと鳴り続けるのが一本調子ではあるのですが、非EL&P系のキーボードトリオとして出色の出来ではないでしょうか。 「バビロニア」組曲の一つ「ニューバビロン II」(New Babylon II)では、深くリヴァーブの掛けられたMellotron 3Viloinsがメインになる展開があり、リードシンセやオルガンとの対比が楽しめます。 「キャリオット」(Cariot)、「フェスティバル」(Festival)ではMellotron Fluteのソロパートがあり、どちらの曲も独特のふくよかなMellotronサウンドを堪能出来ます。 玉石混交だった「ジャップスプログレ」シリーズの中において、見栄やハッタリを感じさせない正直な音楽性は、大変好感が持てる作品です。

2008年6月6日
チョッチョさんプロデュース
「FINISTERRE/La Meccanica Naturale」(2004年 ITALY)

 イタリア産、いわゆるネオプログレッシヴロックグループ4thアルバム。 P.F.M.のドラマーFranz Di Cioccioプロデュースに、Mellotron大量使用の宣伝文句が光ります。 アルバム冒頭から全編、Agostino Macorの演奏するMellotron 3Violins、Choir、Fluteの独壇場。 イタリア語の歌詞と、地中海の爽快な風を感じるアコギ、そしてプログレ先駆者達の叙情性を拡大した局面(当然Mellotronのボリュームもアップ)が何度も登場し、かなりグッとくるハイレベルな仕上がり。 たんなる懐古趣味に陥らず、ハードなオルタナやテクノ風味まで盛り込んだアレンジも軽快で意欲的。 Vinyl Magicレーベルなど90年代から続くプログレ再構築もかなり熟成してきた感があります。 しかしながらMellotronはサンプラーでしょうね。 そろそろ売り手の方も本物のMellotronと、Mellotronサンプルを区別してはくれないものだろうか? サンプルの使用で音楽的価値がゼロになるとは言いません、でも音が全然違うよね。

2008年6月4日
マーク・オーウェン
「Mark Owen/Green Man」(1996年 UK)

 人気アイドルグループTAKE THAT解散後、いち早くソロデビューを果たしたMark Owenの1stアルバム。(現在は再結成し活動中) アイドルがロックに挑戦してみました的なお手軽なモノでなく、良く出来た作品だと思います。 プロデューサーには70年代からアビーロードスタジオで活動し、RADIO HEADやKULA SHAKERなどのプロデュースをしてきたJohn Leckieを据えて、ヴィンテージロック志向の良い音を出しています。 ゲストにはMellotronユーザーでもある、元XTCのDave Gregoryの名前があったりして期待するも、アルバム本編にはMellotronは無し。 しかし日本盤ボーナストラック「Confused」は大当たりのMellotronナンバーでした。 アナログレコードのトレースノイズで始まるイントロからMellotron Fluteが囁き、Mellotron 3Violinsの大盤振る舞いはエンディングまで続きます。 テープアタック音や音量の不安定な場面もあったりして本物のMellotronぽいのですが、まあサンプラーだろうな。 アルバム本編に導入される生ストリングスや生フルートを、Mellotronに差し換えるとバッチリはまりそうな作風なのが実に惜しい。

2008年6月2日
夫婦揃ってチェンバリン
「Michael Penn/March」(1989年 USA/画像左)

 歌手Aimee Mannの夫、俳優Sean Pennの兄、Michael Pennのデビューヒットアルバム。 メジャーデビュー以前から活動を共にしてきた、Chamberlinの名手Patrick Warrenとの共同作業を中心に仕上げられています。 当時は朝から晩までFMラジオからよく流れていました。 Patrick Warrenと言えば、Chamberlin M1のフライホイールを手で触れてベンドダウンさせる独特の奏法が有名ですが、このアルバムでもオープニングナンバーの大ヒット曲「No Myth」からMichael Pennのギターに紛れて、まるでスライドギターのようなテクニックを披露しています。 もはや鍵盤楽器から発せられているとは思えない音なので、意識していないと聴き流してしまうでしょう。 その他収録されたほとんどの曲でChamberlin Guitar、Organ、Trumpet、3Violins、Fluteなど駆使した異端のChamberlinサウンドを見つける事ができます。 7曲目「Invisible」は、珍しく普通のストリングスらしく使われるChamberlin 3Violinsと、スライドギターのような奏法のChamberlin Guitarが混在しているので比較しながら楽しむ事が出来ると思います。 9曲目「Big House」では、イントロからまたもやスライドギターのようなChamberlin Guitarが流れ、曲中はChamberlin Fluteが派手に登場しますのでこちらもわかりやすいでしょう。 Thanksクレジットには、Chamberlin開発者の故Harry Chamberlinの名前も挙げられています。 乾いたギターサウンドと憂いを帯びたメロディ、そしてそこに加えられたChamberlinの隠し味は、音楽ファン万人へおすすめ出来る名作です。 1992年の次作「Free-For-All」でも、更に磨きがかかったPatrick Warrenの超絶テクニックを堪能する事が出来ます。

「Aimee Mann/Lost In Space」(2002年 USA/画像右)

 Michael Pennの奥方、1993年のデビュー作から数えて5枚目のアルバム。 どの作品もたっぷりChamberlinが使用されていますが、モノクロ映像のような枯れた印象の本作には尚更Chamberlinのサウンドがはまります。 多くのプレイヤーが出入りした作品のようで、ChamberlinのクレジットはMichael Lockwood、Jebin Bruni、そしてPatrick Warrenの3人が名を連ね、3曲を除く他8曲へChamberlin Cello、3Violins、Vibraphoneなどを導入しています。 Mellotron独特の暗く湿ったサウンドと違い、カラリと乾燥したChamberlinのサウンドは、Michael PennやAimee Mannの音楽性と相性が良いですね。 やはりアメリカの音楽にはアメリカ生まれのChamberlinのキャラクターが合っているような気がします。

2008年6月2日
アート・バイ・マシナリー
「ART BY MACHINERY/Deus Ex Machina」(1995年 NORWAY)

 CDショップの兄さんに薦められて買った数年前から、イタリアのDEUS EX MACHINAもだいぶ変わったなあと思って聴いていた・・・良く見ればノルウェー(だと思う)のART BY MACHINERYの1stアルバムだった。 1993年結成のこのハードプログレッシヴバンドは、ANEKDOTENやLANDBERKのサイケ色を強調した印象で、ひたすら暗く重苦しい。 同傾向のバンドANTI DEPRESSIVE DELIVEREYのドラマーが正式メンバーで参加し、3RD AND THE MORTALのメンバーも大挙してゲスト参加している事もあり、その辺りの音との類似性も感じられます。 その3RD AND THE MORTALからのゲストキーボードLars Lienは、2曲でMellotronを弾いています。 「Junk」では間奏とエンディングにMellotron 3Violinsを、タイトルトラックの「Deus Ex Machina」でもイントロから沈痛なMellotron 3Violinsを垂れ流し、暗黒さに拍車をかけています。

2008年6月2日
スタンダルテ
「STANDARTE/Standarte」(1994年 ITALY/画像左)

 アナクロにもほどがある。 70年代スタイルのハードロックバンドリバイバルの先駆けとなった、イタリア産キーボードトリオの1stアルバム。 幻想的なKeef風のジャケットは、期待を裏切る事なくアノ手の音を体現しています。 Atmic Roosterの故Vincent Craneに捧げられたこの作品は、ゴリゴリのオルガンがリードするブリティッシュ系直球オルガンロック。 Michele Profetiのクレジットには潔くOrgan、Mellotronとあり、ラスト3曲を除く6曲へMellotron 3Violins、Cello、Flute、Choirを派手に導入しています。 近年もこの手の新バンドが多く紹介されますが、ここまで徹底的にやり切ったバンドは聴いた事がありません。 大概どこかに近代的な音づくりが見えてしまうものなのですが、このバンドに限っては良い意味で新しさは一切無し。しかも70年代のカッコ良さだけでなく、ダサさや至らなさまでも再現した事には感心するしかありません。 ドラマーがリードヴォーカルなのもポイント高し。 70年代前半のロック黄金期に間に合わなかった世代には、当時の新譜を疑似体験出来る貴重な音源となるでしょう。

「STANDARTE/Curses And Invocations」(1997年 ITALY/画像右)

 続・アナクロにもほどがある。 イタリア産キーボードトリオの2ndアルバム。 Michele ProfetiのキーボードクレジットにはPiano、Harpsichord、Moogが追加され、全体的にサイケデリックでカラフルな音像になった。 またベースのStefano GabbaniにまでMellotronのクレジットが追加されている。 Mellotronを全曲投入した効果は絶大で、1曲目ド頭から始まるメロトロン金太郎飴状態は、相対的にオルガンロック度を下げてしまうほどです。 ヘッドにテープが当たるアタック音や、コード弾きでピッチが下がったりする生々しさはアルバムのあちこちで堪能出来ます。 作曲や演奏技術が多少洗練されたものの、作風は前作の延長上にありアナクロ感は衰え知らず。 このバンドの特徴は、Mellotronの嵐でお涙ちょうだい的なシンフォニックになる事が無く、ハードロックに徹しているのが面白い。 前作は70年代初頭の雰囲気だったが、本作は60年代末期に遡っている・・・全く新しくない、と言うのはこのバンドにとって最大の賛辞でしょう。

「Curses And Invocations」資料提供 agito氏

2008年6月1日
NEXT
[1/11] CD&RECORD [2/11] ⇒[3/11] [4/11] [5/11] [6/11] [7/11] [8/11] [9/11] [10/11] [11/11] TOPへ戻る