ARTIST INDEX

■ CDS&RECORDS [6/11]
篠原信彦 関連
 GSから本格ロックへの胎動期を支え、ハプニングス・フォー、フラワー・トラヴェリン・バンド、トランザムや、数多くのセッションワークで活躍されているキーボーディスト篠原信彦さん。 篠原さんが参加したアルバムで、まずは2枚をピックアップ。

「ジョー山中/Joe」(1974年 JAPAN/画像左)

 フラワー・トラヴェリン・バンド解散後、初のソロアルバムとなった本作では、フラワー・トラヴェリン・バンドからの盟友、石間秀機、ジョージ和田と、後にSHOGUNを結成する芳野藤丸らをゲストプレイヤーに迎えてレコーディングされています。 「Call My Name」では、生のストリングスに混じりMellotron 3Violinsがほんの微かに鳴り、Mellotron Choirでエンディングを迎えます。 これはもしかして、Mellotronでレコーディングしてみたものの、結果が良くないので生のストリングスを上から被せたわけではないよね? アルバムラストの「Two People Together」では、今度はイントロからMellotron 3Violinsが登場。 曲中鳴りっぱなしなのですが、演奏は控えめで、ミックスレベルも低め。 Mellotron使用曲のクレジットにはKeyboard(Mellotron)とあり、Mellotronだけ特別扱いになっています。

「杉田二郎/夢袋」(1974年 JAPAN/画像中)

 チト河内グループ、オフコースらをゲストに迎えた、杉田二郎の3rdソロアルバム。 河口湖畔の山荘サニーデに於けるフィールドレコーディングとあり、ライナーの写真を見ると、畳の上に機材が置いてあったり、窓には防音の為でしょうか、毛布が一面に張り巡らされています。 フォークソングのアルバムと侮ってレコードをかければ、1曲目「アイ・ライク・ミュージック」で、目の覚めるようなド派手なMellotron 3Violinsに驚かされます。 もしかしたらイントロのみ、Mellotron Celloが重ねられているかもしれません。 同曲エンディングの「フォークソングが僕に教えてくれた」とリフレインする所は、同じコードで途切れなく延々Mellotron 3Violinsが鳴り続けます。 これはテープで編集したのでしょう、よく聴くといかにもMellotronらしい不均質な音が、何度もループ再生されているのがわかります。

2007年3月19日
フレーミングリップス
「THE FLAMING LIPS/The Soft Bulletin」(1999年 USA/画像左)

 1曲目「Race for the Prize」を初めて聴いた時、七色の光が降り注ぐような音のカラフルさに、目眩がするほど感動しました。 グルーヴしないリズム、脱力したボーカル、元の楽器がわからないくらいエフェクティヴな音作り。 だけど、そのキラキラした音の塊に、それまでの私の音楽体験には無かった新しさを感じました。 それに加えてMellotronサウンドが溢れているのだから、これを聴かずして一体どうしろと言うのだ! 「Race for the Prize」でのウネウネとピッチベンドするMellotronストリングスは必聴だし、「A Spoonful Weighs a Ton」のMellotronストリングス、クワイア、フルート、「Suddenly Everything Has Changed」でのMellotronストリングス等、他にもいっぱいMellotronサウンドが隠れていそうです。

「THE FLAMING LIPS/Yoshimi Battles The Pink Robots」(2002年 USA/画像中)

 「これってMellotronじゃないの?」って言える部分が、アルバムを通して本当にいっぱいある。 いかにもMellotronとわかる様に使えば、プログレと認知されてしまうほど彼らの音楽性は変幻自在なので、これは良いバランス感覚なのかも知れない。 もしかしたらMellotronサンプルかも知れないしね。 「Are You A Hypnotist??」「All We Have Is Now」の荘厳なMellotronクワイアは明らかだし、Mellotronストリングスにディストーションが掛かっているような曲もある。 カラフルなのにほろ苦く、辛辣なメッセージを含みながらもマニアック(オタクっぽい?)、こんなバンドをずっと探していました。

「THE FLAMING LIPS/At War With The Mystics」(2006年 USA/画像右)

 相変わらずラヴ&ピースな脱力サウンドに、プログレやエレクトロニカの手法まで曝け出されていて驚いた。 レコーディング以降の音の編集加工部分にも相当な労力をかけないと、ここまで凝った作品にはならないでしょう。 「The Sound Of Failure」の終盤では独り言の様にうつろなMellotronフルートが登場。 フェイザーで音がグルグルのスペイシーな「The Wizard Turns On...」にもMellotronフルートが顔を出します。 「It Overtakes Me」の後半などは、YES「Close To The Edge」(I Get Up I Get Down)そのものの展開で仰天。 ドラマーのSteven Drozdが初のボーカルを披露する「Pompeii Am Gotterdammerung」にもMellotronフルート、ストリングスが出て来て、疾走感溢れるアレンジと共に楽しめる曲になっています。 AOR並に甘いメロディと暴力的なサウンドメイキング、これはヤバいです本当に。

2007年3月19日
BJC DCT SNC
「THE BLANKEY JET CITY/C.B.Jim」(1993年 JAPAN/画像左)

 プロデューサーに土屋昌己を迎えた3rdアルバム。 仮想アメリカンテイストのロカビリーかと思ったら、予想以上に骨太で豪快なロックなのには驚きました。 歌詞もなかなか面白く、聴いているといつのまにかその世界観に馴染まされる完成度はなかなかのものです。 6曲目の「ROBOT」には、ホッピー神山さんの演奏でMellotron 3Violinsが登場します。

「DREAMS COME TRUE/Love Overflows -Asian Edition-」(2004年 JAPAN/画像中)

 1997年から本格的に英詞のレコーディングをしているドリカムの、英語版ベストアルバム。 デジタルでキッチリレコーディングしてるであろう彼らが、アナログのMellotronを使うはずもないけど、ホンダオデッセイのTV-CMでこの曲が流れた時には不覚にもハッとさせられてしまった。 「LOVE LOVE LOVE -ENGLISH VERSION-」のドあたまに流れるMellotron風フルートはずるいよなあ。

「STRANGE NUDE CULT/モノクロカフェ」(2005年 JAPAN/画像右)

 2000年結成、2004年メジャーデビューの3ピースギターポップバンド。 2005年のシングルに収録されている「花雪」には、ゲストキーボード大和田保紀さんのクレジットで、Mellotron Fluteが使われています。 曲中、苺風味の定番フレーズがフワフワ流れます。

2007年3月18日
モップスさよならコンサート
「MOPS/Exit」(1974年 JAPAN/画像左)

 1974年4月23日、東京中野サンプラザに於ける「モップスさよならコンサート」実況録音盤。 モップスの4人に加え、元ズー・ニー・ブーの桐谷浩史さんがキーボードで参加し、スペシャルゲストとして深町純さんもキーボードでクレジットされています。 バンドの歴史を俯瞰するような代表曲に挟まれ、B面トップに収録される10分30秒の大曲「わらの言葉」では、メロトロンの質量共に日本の音楽史上最高峰と言えるヘヴィプログレッシヴなモップスが堪能出来ます。 イントロからエンディングまで、ひたすらMellotron Choirと3Violinsの凄まじい豪雨。 中盤にはMellotronフルートのソロまで登場し、いかにも本物のMellotronと認識出来る、生々しいアタック音が堪能出来ます。 Mellotronが2台(音色)同時に鳴っているので、2人のキーボーディストが演奏しているのか、オーバーダビングなのかクレジット詳細は不明です。 カバー曲メドレー「To Love Somebody」ではMellotron 3Violinsが、「Nobody Cares」では、これまた凄いMellotron Choirの爆発的な嵐になります。 日本のMellotronロック屈指の一作、Mellotronファン必聴!

(画像中/サイケデリックカラーにペイントされたステージ上のMellotron M400S)

「井上陽水/陽水生誕」(1975年 JAPAN/画像右)

 フォーライフレコード設立移籍後、井上陽水さんの許可無く発売、その後発禁となった1枚。B面には「モップスさよならコンサート」に陽水さんがゲスト出演した模様が3曲収録されています。 そのうちの1曲「傘がない」では、陽水さんと鈴木ヒロミツさんのデュエットになっていて、Mellotron 3Violinsが華を添えています。

2007年3月17日
Mellotron シングル三部作
 その後のオリジナルアルバムにはMellotronの使用が無い為、必然的に注目を集めてしまうMellotronシングル三部作有名盤。 しかしながらどの曲も完成度が高く、捨て曲一切無し。 熱心なイタリアンポップファン、ラヴロックファンからは、やはりこの3枚だけかと怒られそうですが、お許しを...ここはMellotronサイトです。 GENSも「Mellotronの時代」を通り過ぎたアーティストと言えると思いますが、なにより良かった事は、早くからイタリアのスタジオにMellotron MARK IIがあったという事ではないでしょうか。 Mellotron、しかもMARK IIの魔法をかけられたイタリアンポップスが他にもたくさん存在するのですから、想像しただけでも胸が高鳴ります。

「GENS/Per Chi」(1972年 ITALY/画像左)

 BADFINGERのPete HamとTom Evans作、Nilssonの大ヒット曲「Without You」のイタリア語バージョン。 イントロから渋い音のMellotron MARK IIストリングスが流れ、速攻でノックアウト。 曲は申し分なく盛り上がり、Mellotronも同様にエンディングまで熱く盛り上げます。 B面「Piccolo Grande Amore」もA面と同傾向の曲で、Mellotron MARK II ストリングスに生ギターとシンセサイザーが加わり、ホロリと泣かせる絶妙なコード進行に大満足。 後のシングルで、同曲を生のストリングスでリメイクした事を考えると、残念ながらMellotronは好きではなかったのでしょうね。

「GENS/Anche Un Fiore Lo Sa」(1972年 ITALY/画像中)

 生ギターとMellotronフルートの悲しげな導入部から一転、唸るシンセサイザーとMellotronストリングスが爆発するイントロ。 歌が始まればバックに熱いMellotronストリングスと爽やかなMellotronフルートが交互に登場。 サビはひたすら情熱的にMellotronストリングスの熱風が吹きっぱなし! B面「Ra Nosta Realta'」は、生ギターのアルペジオとMellotronフルートに導かれ、ドラムが入ると同時にMellotronストリングスが疾走。 そしてシンセサイザーの野太い音が加わりエンディングと、緩急激しく息もつかせぬ展開。

「GENS/Cara Amica Mia」(1973年 ITALY/画像右)

 三部作の最後はしっとりとした曲調が基本ですが、サビに入ればMellotronフルートとMellotronストリングスがここぞとばかりに一気に盛り上げます。 この急角度なアレンジがイタリアンポップスの熱さでしょうか。 B面「Quella Sera」は、生ギターとコーラスワークが美しい曲。 Mellotronフルートは曲の頭から登場し、歌のバックを潤しているかのようです。 中間部では「ストロベリー・・」風にMellotronフルートがリズムを刻んだかと思えば、サビでは一気にMellotronストリングスが盛り上げます。 どの曲もそうですが、目一杯のMellotronストリングスとドラマチックなアレンジで暑苦しくならないのは、カラリと乾いた生ギターと爽快なコーラスワークの妙味でしょう。

2007年3月17日
ディズニーのチェンバリンショー
「Michael Iceberg/Does It Live 100th Week at Walt Disney World」(1978年 USA)

 1970年代半ばから1980年代後半にわたり、Walt Disney WorldのTomorrowland Terrace(現:Cosmic Ray's Starlight Cafe)にて連日行われたキーボードパフォーマンスの実況録音盤。 当時のガイドブックには「Space Mountain」と「Michael Iceberg」は必ず体験しなければならない人気アトラクションと紹介される程で、多い時には1日に6回のショーを行った事もあるそうです。 PP&M「Puff」、PINKFLOYD「Money」(THE MOODYBLUES「サテンの夜」もやっていたらしい)など人気の曲を織りまぜたメドレーで幕をあけ、約30分たった一人のキーボードオーケストレーションと軽妙な語りで観客を惹き付けます。 シンセ以外のパートは、Harry Chamberlinが彼の為に作った特別な「Chamberlin」(鍵盤部、操作スイッチ部、遠隔操作出来る音源部)によって演奏されていています。 フルート、バイオリン、ギターなどの楽器音はもちろん、動物の鳴き声、雨、雷鳴、歓声、拍手、ブーイング、げっぷ等の多様なChamberlinのサンプリング音は、観客の度胆を抜くのには十分な仕掛けであったと思われます。 Chamberlinドラムロールを数回鳴らし、自己紹介を終えると彼は「私の目の前には3台のキーボードがありますが、これらは30種類の楽器を演奏出来るように離れた所と接続されています」と解説します。 その後、Chamberlinバイオリンで演奏しながら「バイオリーン!」と叫び、Chamberlinギターでフラメンコ風の演奏を披露し「オーレ!オーレ!」と盛り上げ、さらに「シンガーを紹介します」と、Chamberlin女声コーラスで「Over The Rainbow」演奏します。 引き続きディズニーのヒット曲やスターウォーズのテーマ、ウィリアムテル序曲、未知との遭遇などをメドレーで演奏する中に、YES「Close To The Edge」の一節までも登場し驚かされます。 この「Amazing Iceberg Machine」と名付けられたキーボードシステムは、MIDIも無く、サンプリングも一般的でなかった時代、彼の演奏技術と共に突出していた事は間違い無いでしょう。 速弾きには不向きと言われるChamberlinが、これほどまでに速く正確に音を再生する演奏は、数あるMellotron、Chamberlinロックの名盤にも見当たりません。 彼が自慢の器材を紹介し「I Love Synthesizer」と語りながら楽しそうに演奏する様子は、楽器の進歩と音楽表現が一致した貴重な記録と言えると思います。

(画像右/ジャケット裏の写真には、Oberheim 4Voice、Polymoogに加えてChamberlinを遠隔操作する謎の鍵盤が確認出来ます)

情報提供 厚見玲衣氏

2007年3月16日
ポルトガル伝来
「QUARTETO 1111/Onde Quando Como Porque Cantamos Pessoas Vivas」(1974年 PORTUGAL/画像左)

 ポルトガルの重鎮Jose Cidを含む、1967年結成の古参ロックバンド。 4人組みを示す「QUARTETO」に、メンバーMichel Pereiraの電話番号末尾「1111」を組み合わせて、「QUARTETO 1111」なんだとか。 1970年の1st、73年の2ndに続く本作は、5人組となってのラストアルバム。 ビリビリと痺れるような重低音のMellotron Celloで幕を開け、すぐさまMellotron 3Violinsが重なり、歌が始まるとMellotron Fluteが彩りを添える、Mellotronづくし。 良質のイタリアンシンフォに近い感触で、このジャンルを聴き慣れている人なら虜になる事は間違いないでしょう。 過剰なMellotronの重奏を支柱にして、アコースティックギターが牧歌的な空気を出し、メカニカルなシンセサイザーのリードがそれに呼応するバランス感覚は、かなりの完成度です。 アルバム全編あらゆるフレーズをMellotronで弾きまくり、どこを切ってもMellotronが出て来る金太郎飴は、噂に違わぬ美味でした。

「Jose Cid/10000 Anos Depois Entre Venus e Marte」(1978年 PORTUGAL/画像中)

 現在まで、長きに渡る活動を続けるJose Cidの、Mellotronの時代、コンセプトアルバムの時代を通り過ぎる一瞬を捕えた人気作。 重厚なMellotron Choirにゆられてゆったりと幕を開けるアルバムは、ジャケット付属のSFストーリー(滅亡の地球を離れ新天地を求める)絵本に添って進んでいます。 キーボードとボーカルのJoseに加え、QUARTETO 1111から引き続き加わったギターのMike Sergeantと、リズム体の2人を加えてレコーディングされています。 QUARTETO 1111に比べると、ストーリー性を高める事を主眼に置いた印象で、ロックのダイナミズムはやや後退したように感じます。 キーボードは、MellotronよりもMinimoogやストリングアンサンブルがメインとなっています。

(画像右/2台のMellotron M400Sを含むJose Cidの鍵盤楽器群)

2007年3月8日
おならのレコード
「和田則彦/ワンダープーランド」(1978年 JAPAN)

 ピアニスト、音楽評論家、オーディオ評論家、脱音楽レコード収集家、音響デザイナー、など様々な肩書きを持つ和田則彦さんの作品。 録音機材同様、当時高価だったテープの余白に、遊びでおならの音を録音したのが始まりだったそうです。 それはアスキー出版、田中雄二著「電子音楽 イン・ジャパン」(1998年初版)に、大変詳しく書かれており、後にフジテレビ人気番組「トリビアの泉」(2004年3月3日放送)で放送され、お茶の間にもその情報は普及します。 アルバム全てがおならの音で構成されている訳では無く、ほとんどの曲がオーケストラなどの伴奏におならで合いの手を入れたりするものですが、前述の書によると収録曲「ちょうちょ」はおならのテープをMellotronで演奏したとあります。 なるほど「ちょうちょ」は、おならの音だけでリズムも音程も正確に演奏されています。 Mellotron特有のアタック音や不安定要素は一切無く、その出来の良さは、Mellotronと信じ難い位です。 当時流行した「ルームランナー」(体重計の上をジョギングする様な健康器具)のCMでも、女性ランナーがおならをするシーンがあったと記憶しています。 ジャケットの裏には「ルームランナー」の広告も載ってますし、そのCMもレコードに収録されています。 のどかで楽しく少し臭い、昭和の珍盤。

2007年3月1日
JON(犬)
「JON & UTSUNOMIA/(  )」(1998年 JAPAN)

 犬の着ぐるみで足踏みオルガンを弾き語るJONさんと、AFTER DINNERでお馴染みの音響マッドサイエンティスト宇都宮泰さんの供作。 1996年8月から11月にかけて、和歌山県平瀬小学校跡、大阪芸術大学構内、高貴寺境内(スタジオニルバナ)、大阪ビジュアルアーツ専門学校においてレコーディングされました。 廃校では鍵盤を押さずにピアノを演奏したり、蝉の鳴く校庭で様々なフィールドレコーディングしたりと、かなり実験的な内容。 8月2日、宇都宮さんが講師を務める大阪ビジュアルアーツ専門学校にて行われたレコーディングでは、レスリースピーカーに接続されたMellotronが使用されました。 CD10曲目「としとったら」では、JONさんがMellotronで弾き語っていて、その生々しい録音からはMellotronのテープがシュルシュルと上下する音まで楽しむ事が出来ます。 これは、同校のスタジオが所有するMellotron M400S(鍵盤の上に蝶番で開閉出来るカバー付き)でレコーディングされたのでしょうか。

2007年2月28日
三畳一間風呂無しMellotron付き
「かぐや姫/さあど」(1973年 JAPAN/画像左)

 四畳半フォークの代名詞「神田川」収録アルバム。 歌詞では「三畳一間の小さな下宿」と歌われているので、部屋にMellotronを置いたら生活スペースは2.5畳位ですね。 収録曲「あてもないけど」ではMellotron 3Violins、「突然さよなら」ではMellotron Fluteが登場します。 アルバム最後の「僕の胸でおやすみ」がMellotron的ハイライトでしょう。 ベースラインとしてMellotron Cello、歌詞に呼応するようにMellotron Flute、バックにMellotron 3violinsがふんだんに使われています。 キーボードソロはMellotron Celloがリードをとり、中間からMellotron Fluteが絡む豪華仕様。 石川鷹彦さんと元ジャックスの木田高介さんがアレンジも担当し、その他の楽器と共にMellotronを演奏しています。

「かぐや姫/LIVE」(1974年 JAPAN/画像右)

 人気絶頂のかぐや姫、京都会館、大阪厚生年金ホールでの1974年のリサイタルを収録した実況録音盤。 隠れMellotron大曲「僕の胸でおやすみ」では瀬尾一三さんのアレンジで、キーボードの大原繁仁さんがMellotron 3Violinsのバッキング、Mellotron Fluteのソロを演奏しています。 Fluteのアタック音がやたらと聴こえて、Mellotronファンにはたまらないライヴです。

 吉田拓郎 & かぐや姫コンサート in つま恋 2006でも、石川鷹彦さんはバックバンドを務めたそうですが、さすがにMellotronの導入はありませんでした。 日本において「Mellotronの時代」だった1974年、様々なアーティストがMellotronの前を通り過ぎて行きました。

2007年2月27日
ECMレーベル
「Terje Rypdal/Whenever I Seem To Be Far Away」(1974年 NORWAY/画像左)

 ノルウェーのジャズギタリストTerje Rypdalの、ECMにおける2枚目のリーダーアルバム。 ジャズのカテゴリーには収まらない奔放さで、寛容なロックリスナーならば高い確率でヘビーローテーションに加わる事は間違い無い作品だと思います。 A面1曲目「Silver Bird Is Heading For The Sun」は、オープニングからホーンと共にMellotron Celloが雄叫びを上げ、すぐさまMellotron Stringsが重なります。 しばらく重苦しい混沌としたジャズプレイが続き、メインテーマへ導かれる瞬間、再びMellotron Stringsが発火するのですが、そのコントラストが痛快。 そしてヘビーな演奏が曲終盤まで持続し、改めてされるメインテーマの提示と同時に、フェイザーで揺らめいたMellotron Stringsの炎。 2曲目「The Hunt」でも、哀愁たっぷりのジャズプレイの上空をゆらゆらとMellotron Stringsが漂います。 北欧の凍てつく空を写した、内藤忠行氏のジャケット写真のイメージそのままに、果てしなく冷たい無熱火炎地獄。 Mellotronは恐らくM400Sでしょうか、3Violins音源独特の冷たさが更にその印象を増長させているように思えます。 Mellotronは、同じくノルウェーのPOPOL VUH/POPOL ACEのキーボードPete Knutsenがプレイしています。

「Julian Priester Pepo Mtoto/Love, Love」(1974年 USA/画像右)

 トロンボーン奏者Julian Priester久々のリーダー作で、Harbie Hancockらとの活動から分派したと言われるエレクトリックジャズ作品。 A面1曲すべて同じ変拍子のリズムパターンが流れる上を、強烈にエフェクトがかけられたホーンやシンセサイザーが自由に演奏される音像は、かなりドラッギー。 音作りは、このレコーディングスタジオの主でもあるキーボードのPat Gleesonの力が大きいようです。 ARP2600、Moog III等の鍵盤クレジットの中にMellotronは無いのですが、曲の流れとは無関係にMellotron 3Violinsらしき音が時おり悲鳴を上げます。 ARP Prototype String Synthesizerというクレジットが、犯人に最も近いのですが、何度も顔を出すStringsはやはりMellotronに聴こえる。 迷いながらも聴き進み、エンディング30秒前にはMellotron独特のCelloサウンドらしき音が登場。 例のコントラバスで録音されたMellotron Celloの低音部、まさしくその音で曲が終るのです。 これは、どう聴いてもMellotronでは?

2007年2月16日
K-POPのMellotron
「WONDER BIRD/The Story Of The Lazy Bird」(1999年 KOREA/画像左)

 PIPI等を経たベーシスト、パク・ヒョンジュンと、韓国におけるロックの父と言われるシン・ジュンヒョンの息子で、ギターのシン・ユンチョルらが中心となって結成された4ピースロックバンド。 ラウドなオルタナギターサウンドと思えばビートルズ風味だったり、ブルージーなかったるさがPINK FLOYDを思わせたりと、基本はブリティッシュロックテイスト。 ギターのシン・ユンチョルのMini MoogやMellotron(クレジットはSamples from Mellotron)があちこち飛び出して、かなりマニアックな香りがします。 曲名がハングルで読めないのですが、3曲目にMellotron Choir、5曲目にMellotron Strings、9曲目にMellotron Fluteが登場します。 5曲目の鳴り続けるStringsと9曲目のZEPPELIN風サウンドに絡むFluteがMellotron的にハイライトでしょう。 一発録りに近いサウンドメイキングと上手過ぎないボーカルが、純粋にロック的で好感が持てます。

「SEOUL ELECTRIC BAND/Seoul Electric Band」(2005年 KOREA/画像右)

 WONDER BIRDのシン・ユンチョルとその弟ソクチョル、キム・ジョンウクの3人組ポップユニット。 収録14曲中、7曲にMellotron Strings、1曲にMellotron Choir(サンプルもしくはシンセサイズ音源と思われます)が使用されています。 WONDER BIRD時代に比べると、Mellotronサンプルも含め、明らかに全体のサウンドクオリティが上がっているのがわかります。 「Come in to my Dream」のエンディングでMellotron Stringsが鳴り続ける所や、「Sand castle」でのMellotron Stringsのピッチベンド、「Myung-tae」でのStringsとChoirの嵐など、かなり積極的にMellotronが登場します。 SE的なシンセやシタール、コンボオルガンが加わって、60年代末期のサイケ嗜好を全面に出し、インストルメンタルを3曲も織りまぜたりと、ただのポップスでは無い事を主張しています。 不遇だったと言われるWONDER BIRD時代を過ぎて、このバンドでは多くの賞を受賞し、評価も上がっているようです。

 SEOUL ELECTRIC BANDのCDを提供していただいた、Taeyoung Doh氏によれば、韓国には本物のMellotronは無いとの事ですが、氏をはじめ多くのMellotronファンがお隣の国にも多くいる事実を知る事となりました。

「SEOUL ELECTRIC BAND」資料提供 Taeyoung Doh氏

2007年2月12日
Mellotronサウンドの極北
「DON RRADSHAM-LEATHER/Distance Between Us」(1972年 UK/画像左)

 ENID率いるRobert John Godfreyの覆面作品ではないかと言われる本作は、アナログA、B面のタイトル曲、C面「Dance Of The Gobrins」、D面「Autumn Mist」の3曲構成になっています。 アルバム全体を覆い尽くすMellotronストリングスサウンドは脅迫的で、全編を通して聴くには相当のエネルギーを必要とします。 なかでも穏やかそうなB面ですら、リリカルなピアノをメインとしながらも、一旦曲のテンションが上がればMellotronのおどろおどろしい暗闇が押し寄せ、まともな精神状態でいることは不可能です。 Mellotronのボリュームミキシングが意図的に激しく上下され、土着的なパーカッションの渦に心安まる間もなくD面が終れば、いとも簡単にMellotronノイローゼが1人出来上がる事になります。 「お前は俺より本当にMellotronが好きなのか?」と、Don Bradsham-Leatherに試されているようなMellotron偏愛作品。

「V.A./歌のない歌謡曲」(1976年 JAPAN/画像中)

 ビクターファミリークラブ発行、8枚組BOXセット。 3枚目「女のためいき」に収録されている「柳ヶ瀬ブルース」は、演奏「メロトロンズ」となっており、メロディに合わせたバックコーラスがMellotron Choirで延々と演奏されています。 これが恐い、本当に恐い、こんなレコードが場末のスナックで流れていたかと思うと昭和のパワー、否、Mellotronのパワーは計り知れません。

「V.A./歌のない歌謡曲」(1980年 JAPAN/画像右)

 こちらもビクターファミリークラブ発行の、豪華10枚組BOXセット。 5枚目「女の意地」に収録されている「赤坂の夜は更けて」も、演奏「メロトロンズ」となっており、リードのメロディがMellotron 3Violinsで演奏されています。 ピアノ、ギター、ベース、ドラム、マンドリン等の、ごく普通のカラオケバッキングに、突然悲鳴を上げるMellotronは普通じゃありません。 後半からは恐いMellotron Choirも加わり、酒場のムードは(私的には)最高潮。 間奏のMellotron Choirソロは、恐らく音楽史上最速のメロトロンソロプレイではないでしょうか? もはやヒューマンヴォイスを使用する必然性すら感じない程です。

 7枚目「遠くへ行きたい」に収録されているのはカラオケの定番「よこはま・たそがれ」です。 あの有名なイントロからゴキゲンなMellotron 3Violinsが登場。 「よっこはんま〜♪」のメロディに合わせて、Mellotron Choirが流し、中盤は分厚い3Violinsの嵐。 少しばかりのアドリブも加えながら、3ViolinsとChoirでエンディングまでエスコート...。(絶句)

 私の推測ですが、1973年頃に早々とMellotron M400Sを導入したビクタースタジオが、本当にこれ1台でオーケストラの代用になるのかと行った、検証的なレコーディングだったのではないでしょうか。 編曲をされた小谷充さんは、Mellotronも演奏されたかもしれません。

2007年1月27日
メロトロン・オプティガン・オーケストロン
 プログレキーボード三種の神器といえば、Hammond、Moog、Mellotronですが、サンプルプレイバックキーボードの三種の神器といえば、Mellotron、Optigan、Orchestronでしょうか。 1990年代からポップミュージックの様式は拡散のスピードを増し、音の新鮮さを求めるが故に忘れられていた楽器にまで陽の目が当たったのだと思います。 Mellotronも今は、Optigan、Orchestron、そしてChamberlinサウンドの目新しさに押されて、流行の先端から一歩退いた印象ではあります。

「NANOOK OF THE NORTH/The Taby Tapes」(2002年 SWEDEN/画像左)

 近年多作を極める、ANGLAGARD、PINEFOREST CRUNCH、等を経たドラマー、プロデューサーMattias Olssonさんのプロジェクト。 1922年、エスキモーの生活を追った、同名のドキュメント映画をモチーフにしたと思われる本作は「nanook」というクレジット(役名?)で多くの使用楽器が名を連ねています。 Mellotron400、Orchestron、Optigan、Omnichord、Stylophon、Theremin、Organ、Casio SK-5、VL-1、Piano、Harmonica、Accordions、Banjo、Autoharp、他。 これらに加えてDrumsもクレジットされていて、せせこましい独特のドラムスタイルのNanookはMattias本人かと思われます。 曲調は男女2人が語り合うようなボーカルを軸に、これらの楽器が奏でるLo-Fiポップソング。 いかにも北欧を想起させる爽やかさと優しいイメージは、目を閉じて深呼吸したくなるほど美しいものです。 更に、OPTIGANALLY YOURSのPea HixによるChilton Talentmaker(OptiganのOEMモデル)、Wurlitzer Electric Pianoや、Jfre"Robot"CordによるChamberlin Rhythmate、Moog Lougeが加わっていて、その筋のポップマニアでなくとも満足出来る高水準の内容になっています。

「AK-MOMO/Return To N.Y.」(2004年 SWEDEN/画像右)

 Mattiasの演奏するOptiganのリズムトラックをベースに、Mellotron、Orchestronが重なり、Ak Von Malmborgの少々エキセントリックなボーカルが重なる、コンパクトなユニット。 Mattiasのクレジットはズバリ、Optigan、Orchestron、Mellotonの三種だけ。 Kate BushやBjorkをイメージさせるAk Von Malmborgの声質は一歩抜き出る個性を感じます。 女声版OPTIGANALLY YOURSとも言える本作は、ジャケットに演奏クレジットは無いまでもPea Hixへの謝辞が加えられています。

資料提供
Mattias Olsson

2007年1月26日
ノヴァリス
「NOVALIS/Banished Bridge」(1973年 GERMANY/画像左)

 19世紀ドイツロマン派詩人からバンド名をとったという、ジャーマンシンフォニックロックグループ。 霧の彼方にかすんだ牧歌的な音像から、ごくゆるやかにロックのダイナミズムへ、またはその逆へと転調する重厚な展開が、プログレッシヴでありサイケデリックな内的イメージもかき立てられる内容になっています。 「HIGH EVOLUTION」では、2番のボーカルパートのバックにMellotronフルート、3番のボーカルパートのバックにMellotronストリングスが使用されており、エンディングにも印象的なストリングスをワンノート残しています。 アルバムエンディングのクラシカルなポップソング「INSIDE OF ME [INSIDE OF YOU]」での軽快なブラスは、クレジットから察するにMellotronブラスでしょうか。 また、タイトルトラック「BANISHED BRIDGE」や「LAUGHING」では、Mellotronフィメールクワイア、ビブラフォン、Sound FX等が使用されているようです。 キーボードのLutz Rahnはオルガンをメインに、誠実な演奏をしています。

「NOVALIS/Konzerte」(1977年 GERMANY/画像右)

 初のライヴアルバムとなる4作目は、英語で歌われていた1stを経て、母国語であるドイツ語へ方向転換した2nd、3rdからの選曲になっています。 演奏はライヴらしくやや荒々しさを感じさせながらも、一音一音置いていくような繊細なNOVALISらしさも兼ね備えています。 「Impressionen」では、ギターも兼任するFred Muhlbockの生フルートと、Lutz RahnのMellotronフルートが素晴らしいコンビネーションを聴かせてくれます。 「Wer schmetterlinge lachen hort」では、バックにMellotronフィメールクワイアが使用されています。 詩人Novalisの詩を基にした「Wunderschatze」でもボーカルのバックに淡々とMellotronフルートが涼しい風を吹かせています。 ブリティッシュロックとは違う野暮ったさと虚飾を排した清々しさに、独自の世界観を感じることができます。

2003年11月10日
クリアーライト
「CLEAR LIGHT/Clear Light Symphony」(1975年 FRANCE/画像左)

 キーボード奏者Cyrille Verdeauxの1stプロジェクトアルバム。 AB面と分かれた「CLEAR LIGHT SYMPHONY Part I」「CLEAR LIGHT SYMPHONY Part II」の2部構成になっており、A面にはGONGのTim Blake、Steve Hillage、Didier Malherbeが、B面にはURBAN SAXのGilbert Artmanらが参加しています。 曲は冒頭からMellotron 3Violinsに始まり、Mellotronチェロの高音部、Mellotronクワイアと、まさしくMellotron多重録音の大作と呼べる内容です。 スリリングなピアノや緩急織りまぜた展開と、Steve HillageのふわふわしたギターをはじめとするGONG組のゆるんだ空気が、音の塊を螺旋を描いて天に登らせて行きます。 B面は、A面と同一テーマながらリズムを強調し、ややロック色を強めた印象。 Mellotronクワイア、3Violinsの多重録音もそのまま、どこを切ってもMellotronが出てきます。 ピアノやオルガンも含めた演奏は濃密で、終盤からエンディングにかけての怒濤のMellotronは、鳥肌が立つほど美しく一聴に値する名演です。

「CLEAR LIGHT/Forever Blowing Bubbles」(1975年 FRANCE/画像右)

 1stの混沌とした大作指向に比べ、比較的コンパクトにまとまった楽曲を並べた2ndアルバム。 バンドもメンバーを固めたようですが、David CrossやHATFIELD&THE NORTHのコーラス隊「The Northettes」等の豪華なゲストも話題を呼びました。 「WITHOUT WORDS」「ET PENDANT CE TEMPS LA」ではMellotronストリングスが使用されていて、特に「ET PENDANT CE TEMPS LA」で、大きなキークリック音を鳴らしながら早いフレーズに追随するところなど、Mellotronファンにはたまらないものがあります。 「WAY」「NARCISSE ET GOLDMUND」ではMellotronクワイアが使用されており、「NARCISSE ET GOLDMUND」ではThe Northettesのボーカルのバックに荘厳なイメージを付け加えています。

2003年11月9日
相乗効果
「PULSAR/Halloween」(1977年 FRANCE)

 アルバムA面「HALLOWEEN Part I」とB面「HALLOWEEN Part II」の組曲形式で構成された、彼らの3rdアルバム。 日本の童謡を思わせるアルバム冒頭の「Halloween Song」を終えて、Mellotronフルートの冷気が次曲「Tired Answers」を導く耽美でシンフォニックな展開には、大変センス良くMellotronが導入されています。 Jacques Romanの演奏するMellotronストリングスやシンセサイザーに負けないほど、Roland Richardの演奏するストリングアンサンブルが全面に出てきますが、これが意外にもMellotronとシンセの音色の落差を埋め、これぞキーボードオーケストレーションと呼ぶにふさわしい重厚さを出していています。 同傾向の楽器であるMellotronとストリングアンサンブルですが、併用することでこれほど相乗効果を生み出すとは思いもよりませんでした。 また、Jacques RomanのMellotronフルートとRoland Richardの生フルートの巧みな使い分けも特筆すべきものでしょう。 シリアスなアコースティックギターや美しいボーカルもバランス良く、まるで油彩画のような欧州的世界を楽しむには最適のアルバムです。

2003年11月9日
Be Bop Deluxe
「Be Bop Deluxe/The Best of and the Rest Of Be Bop Deluxe」(1979年 UK)

 1974年のデビューアルバムから、1979年までの作品をまとめたベスト盤。 キーボーディストAndy Clarkを加えて新編成となった3rdアルバム「Sunburst Finish」(1976年)に収録されている、「Sleep That Burns」では、切れ味の良いポップソングに無機的なMellotronクワイアを加えています。 スタジオ収録におけるMellotronの使用はわずかですが、ジャケットのステージ写真で白いMellotronを確認することができる様に、ライヴではだいぶ活躍していた模様です。 個性的な音を好むリーダーのBill Nelsonが、Mellotronの使用を決めたのではないでしょうか。

(画像中/ステージ右端にセットされる、Mellotron M400S)
(画像右/Mellotronロゴの大きなステッカーが目立つ楽器背面)

2003年11月5日
リストラの予感
「ELECTRIC LIGHT ORCHESTRA/Out Of The Blue」(1977年 UK)

 長岡秀星の派手なジャケットアートが目を惹く、ELO黄金期の2枚組大作。 「バンド内にストリングスセクションを内包する」というバンドコンセプトを意識してか、Mellotronストリングスが前面に出ることはありませんが、要所に巧みにMellotronを配しています。 「SWEET TALKIN' WOMAN」「STEPPIN' OUT」ではMellotronクワイア、「ACROSS THE BORDER」では、イントロのバックにかすかなMellotronストリングスが使用されています。 組曲形式の「CONCERTO FOR A RAINY DAY」では、Mellotronクワイアが比較的目立つ形で使用されており、アルバムラストの「WILD WEST HERO」でもMellotronクワイア、フルートが使用されているかもしれません。 常時鳴り続ける生ストリングスと分厚いコーラスの音の波から、Mellotronを聴き分けるのは大変困難な作業であり、職人Jeff Lynnが素人の耳でわかる程度の安易なレコーディングをして、簡単に手の内を見せるようなことはありませんでした。 キーボードRichard Tandyの使用楽器にはMellotron M400をはじめ、MOOG Polymoog、ARP Omni等、非常に多くの鍵盤楽器が名を連ねており、現状で限界と思われるほどの音の積み重ねが、次作「Discovery」でストリングスセクションのメンバー3人を正式メンバーから外す結果を招きました。

2003年11月2日
レオン・ラッセル
「Leon Russell/Carney」(1972年 USA)

 ピアノプレイヤー、プロデューサーとして活躍するLeon Russellの1972年の名作。 キーボードのJohn Gallieも演奏したのでしょうか、ほぼ全曲にわたってChamberlinの様々な音源が大々的に使用されています。 アルバム中最も実験色の強い「CARNEY〜ACID ANNAPOLIS」では、ChamberlinトランペットとChamberlinパーカッションのアンサンブルに始まり、後半はChamberlin男声独唱と生のコーラス、Chamberlinギターのサイケデリックな展開になります。 そして曲の最後では、今までの混沌とした雰囲気を一蹴するかのようにChamberlinの笑いと拍手の効果音テープで終わります。 Chamberlinの効果音は「OUT IN THE WOODS」で鳥の声、「MANHATTAN ISLAND SERENADE」で雷、雨、クルマ、バイクの走行音、「MY CRICKET」で虫の声が使用されています。 「THIS MASQUERADE」では、Chamberlinストリングス、ギター、ヴィブラフォンの大変美しいイントロに始まり、曲中はChamberlinフルート、ストリングスが使用されています。 「CAJUN LOVE SONG」では、Chamberlinオルガン(アコーディオンか?)が全面に使用され、テープ巻き戻しの音まで拾っているのではないかと思われるほど、大きなキークリック音が聴こえます。 「MANHATTAN ISLAND SERENADE」「MAGIC MIRROR」でもChamberlinフルート、ストリングスがメインに使用されています。 彼のメイン楽器であるピアノよりもChamberlinを多用したこの作品は、様々な楽器音や効果音も含めてChamberlinの驚異的な可能性を示した好例と言えます。 こんなにポップで滋味溢れる作品に、違和感なく溶け込んだChamberlinのなんと素晴らしいこと!

2003年10月25日
ダーリンめろとろんだっちゃ!
「平野文/Fumi Fumi Animate」(1984年 JAPAN)

 「うる星やつら」ラムちゃんでお馴染みの声優、平野文さんが人気アニメの主題歌をカバーしたアルバム。 バックの仕掛人には、安西史孝さんも名を連ねており、「想い出がいっぱい」で、これでもかと言うほどMellotronを弾いています。 中盤からMellotronフルートのメロディライン、バックにMellotronストリングス、隠し味にMellotronチェロと、さわやかな楽曲になんとも壮大なアレンジを施しています。 前半にはKeith Tippett並の超絶ピアノフレーズもあったりして、さすが安西さん、好き者をニヤリとさせてくれます。 しかし、ジャケット裏には小さく「子供向」との注意書きが!

2003年10月24日
危機
「YES/Close To The Edge」(1972年 UK)

 「THE YES ALBUM」「FRAGILE」と、誰人も到達し得なかったプログレッシヴロックの領域を自ら凌駕した5作目。 混沌としたオープニングから、明確な結論を導きだしたメンバーの力量と、プロデューサーEddie Offordの構成力は、ロック史上最も進歩的なアルバムを完成させました。 4部構成のタイトルトラック「Close to the Edge」では鳥の声や水の流れに乗って幕を開け、「Total Mass Retain」ではRick WakemanのMellotronストリングスが凄い勢いで現れては消えて行きます。 「I Get Up I Get Down」から「Seasons Of Man」では、Mellotronストリングスが空中を浮遊し、エンディングはHAMMONDオルガンとの大団円となります。 冒頭とエンディングの水流、鳥の声、そして「I Get Up I Get Down」の静寂に聞こえる水滴の音は、MellotronのSound FXかもしれません。 B面「And You And I」も4部構成で「Cord Of Life」から「Eclipse」への展開部と「The Preacher The Teacher」の終盤ではMellotronストリングス、ブラスの嵐となります。 アルバムラストの「Siberian Khatru」は、イントロからHAMMONDオルガンとユニゾンのMellotronブラスが炸裂し、中盤ではMellotronストリングス、フルートが全面に使用されます。 そして再び怒濤のメインテーマに戻り、激走しながらMellotronブラスで燃え尽きます。 Rick Wakemanのキーボードをはじめとして、全体に音数がそれほど多くない上に、約37分という短い収録時間は、饒舌にならずとも濃密な作品を作りだせるという事実を伝えています。

2003年10月13日
さよならMike Pinder
「THE MOODY BLUES/Octave」(1978年 UK)

 活動休止期間を経て約6年ぶりに発表されたMike Pinder在籍最後の作品。 コンセプトアルバム、トータルアルバムといった、今までのアルバムと違い、ポップな佳曲を集めたアルバムになっています。 シンセサイザーや、生のストリングスを大幅に導入した楽曲からは、残念ながら私の耳でMellotronを聴き取る事は出来ませんでした。 アルバム唯一のMikeの作品「One Step Into The Light」には、まるで置き手紙のように「There's one thing I can do. Play my Mellotron for you.」と言う歌詞があります。 MOODY BLUESと共にMellotronからも決別する様子で、この楽曲にもMellotronは使用されていません。 Mikeは一体、どんな事を思いながらこの曲を作り、レコーディングに望んだのでしょうか。

2003年10月12日
Mellotron>Moog
「THE MOODY BLUES/A Question Of Balance」(1970年 UK)

 自らが所有するTHRESHOLDレーベルからの2作目。 アルバムトップを飾る「Question」から、Mike Pinder操るところのMellotron MARK IIが大活躍しています。 爆発音のような勢いで飛び出すのは、Mellotronブラスのハーフスピード音源とMellotronストリングスで、高音のストリングスと、地を這うブラスのミックスは物凄い存在感です。 続く「How Is It(We Are Here)」「And The Tide Rushes In」「Don't You Feel Small」「Tortoise And The Hare」でも、とろける様にスムーズなMellotronストリングス、フルート、ブラスがたっぷりと使用されています。 アルバム終盤「Dawning The Day」でも美しいMellotronストリングスが使用され、再び低音を支えるのはハーフスピードブラスのようです。 「The Balance」ではMellotronストリングスと、軽快なMellotronブラスが流れ、アルバムラストを飾ります。 本作からMoogシンセサイザーを導入する彼らですが、「How Is It(We Are Here)」に簡単なフレーズを残すのみで、大幅な導入はありません。 4年後の1974年時点でも、ドラムのGreame Edgeは「あまりにもエレクトロニクスの域を出ていない」と、その無機的な音を敬遠する発言をしており、MellotronにMoogの音を取り込む計画があるとも言っていました。 音楽スタイルの違いか、Mellotronへの執着か、1960年代からセンス良くMoogを導入してきたBEATLESや、このアルバムと同じく1970年デビューのEL&Pと全く違う姿勢は、大変興味深いものがあります。

2003年10月11日
雨の日も風の日もMellotron
「Steve Hackett/Please Don't Touch」(1978年 UK/画像左)

 GENESIS脱退後初のソロアルバムは、KANSASのSteve Walshを始め大物シンガーをゲストに迎え、ボーカルに重点を置いた作品になっています。 「Hoping Love Will Last」では、Hackett独特のサスティンギターの隙間を縫って、Mellotronストリングスが不穏な空気を流しています。

「STEVE HACKETT/CURED」(1981年 UK/画像右)

 「カリビアン・ヴァケーション」と言う、強引な邦題をつけられた5thアルバム。 Phil CollinsのソロヒットやGENESISのポップ化など、まわりが慌ただしくなる中、ヒットを欲しがるレコード会社からの圧力が最も強くかけられた作品ではないでしょうか。 爽やかな楽曲へ、微妙に無気味さを加えるHackettさんは、こっそりNOVATRONを忍ばせる事を忘れませんでした。 キーボードのNick Magnusは「Can't Let Go」の静かにわき上がるイントロに、NOVATRONストリングスを使用しています。

2003年10月11日
眩惑のブロードウェイ
「GENESIS/The Lamb Lies Down On Broadway」(1974年 UK)

 Peter Gabriel在籍最後の作品は、ファンタジーの世界を離れたシュールな2枚組コンセプトアルバム。 グルーヴィーなタイトルトラックで華々しく幕を開けた後は、乾いたMellotron 8Voice Choirに導かれて「Fly On A Windshield」へ続きます。 そして曲は「Broadway Melody Of 1974」へ展開し、Steve Hackettのギターのうねりと共に、Mellotron 3Violinsの嵐になります。 「The Grand Parade Of Lifeless Packaging」では、ふわふわしたMellotron Fluteかオルガンが使用されているようです。 「Hairless Heart」の冒頭はMellotron Mandrinでしょうか、続いて流れるようなMellotron 3Violinsが曲中を支配します。 「The Chamber Of 32 Doors」「Lilywhite Lilith」「Here Comes The Supernatural Anaesthetist」でも重厚感あふれるMellotron 3Violinsが使用されています。 「The Lamia」では、サビと共にわき上がるMellotron 3Violinsが感動的、しかも2番のサビではMellotron 8Voice Choirを使用し、音色を使い分ける細やかな作り込みを聴かせてくれます。 インストルメンタル「Silent Sorrow In Empty Boat」では、Mellotron 8Voice Choirが、曲をリードします。 プエルトリコの青年Raelがシュールリアリスティックな旅をする物語は、急流に流される兄Johnを助け、その兄の顔が自分であったという、衝撃の結末を迎えます。 自己探究の果ては自分へと帰結するということでしょうか、その余韻も味わわぬまま、Mellotron 3Violinsの流れる「It」へとなだれ込み、エンディングを迎えます。 キーボードのTony Banksは、曲中だけでなく、曲間にも印象的なMellotronを配して、アルバム全体の色合いを決定しています。 「THE Waiting Room」「The Colony Of Slipperman」では、爆発音や、きしむドア音といった、Mellotron Sound FXらしき音も確認出来ますが、これらはゲストのEnoの仕業かもしれません。 レコーディングとライヴステージには、従来からのMARK IIは外されて、M400Sを使用しているようです。 メンバー間の不和があったと言われていますが、そのような事は微塵も感じさせない完成度の高さで、5人GENESISの最後を飾るにふさわしい超大作となりました。

2003年10月7日
ハート
「HEART/Little Queen」(1977年 USA/画像左)

 配給権の問題で、本邦初登場となった2ndアルバム。 MTV全盛時代のハードポップ路線とは違い、ブリティッシュトラッドテイストを感じさせる内容で、フルートやマンドリン等を取り入れた、奥行きのあるロックアルバムになっています。 シングルヒットとなった「BARRACUDA」では、ギターソロのバックへ、キーボードのHoward LeeseがMellotronクワイアを導入しています。

「HEART/Bebe Le Strange」(1980年 USA/画像右)

 ハードさを増し、これから全盛期を迎えようとする5thアルバム。 「DOWN ON ME」では、Nancy WilsonにMellotronのクレジットがありますが、Howard Leeseのシンセサイザーを上からかぶせている為か、エフェクトをきつくかけているせいか、あまり実体を掴めません。 ピッチベンドを活用して面白い演奏をしているのに、実にもったいない。 まあ、シンセ全盛の1980年にMellotronではだいぶ時代遅れの感は否めませんが。

2003年10月4日
オランダ屈指のポップグループ
「EARTH&FIRE/Music For The Millions」(NETHERLANDS/画像左)

 オランダのポップグループ、EARTH&FIREの本国ベスト盤。 1969年から77年まで、アルバム未収録シングルを含めて、グループ絶頂期を俯瞰しています。 1971年のアルバム「Song Of The Marching Children」収録「Storm And Thunder」では、Mellotronストリングスに始まり、転調してからはMellotronチェロも加えた、Mellotronの猛吹雪になります。 1972年のシングル「Memories」では、シンセと組み合わせたMellotronストリングスの濃密なイントロで幕を開けるポップソング。 その後も全編Mellotronの猛吹雪。 1973年のアルバム「Atlantis」収録「Maybe Tomorrow,Maybe Tonght」では、オルガンとユニゾンのMellotronブラスで始まる勇ましいポップチューン。 派手なギターソロの最中にもMellotronは鳴りっぱなしです。 1975年のアルバム「To The World Of The Future」は、ドラムのエフェクトや、シンセサイザーの大幅な導入など、前作と比較して一気にモダンでスペイシーに変貌しました。 収録曲「Only Time Will Tell」「Love Of Life」では、ポップでドラマチックな曲調は変わらず、シンセサイザーと共にMellotronストリングス、ブラスで曲を埋め尽くした、恐ろしいほどの音の激流を堪能出来ます。 1976年のシングル「Thanks For The Love」でも、Mellotronストリングスが全編使用されています。 1971年からこのシングルあたりまで、キーボードのGerard KoertsはMellotron MODEL300を使用しているようで、MARK IIストリングスにしては音が軽やかで、M400の3Violinsほどヒステリックにならない、独特の上品さを持ったMellotronストリングスを楽しむ事が出来ます。 この頃からポップの度合いに拍車がかかり、ディスコめいてみたり、レゲエ風ありと、様々な要素を取り入れて行く彼らですが、サイケ、プログレの時代を通り過ぎて、さらに変化を続けながらも、致命的な駄曲が無いのはメロディーメイカーとして大変優れている証だと思います。 また、Mellotronも良い楽曲あってこそ、その効果を発揮できると言うものです。

「YBO2/光の国」(1987年 JAPAN/画像右)

 プログレッシブノイズバンド、イボイボの12インチシングル。 B面にはEARTH&FIRE「Seasons」のカバーが収録されており、本家ではリコーダーで演奏されていた曲後半部が、北村昌士さんの演奏するMellotronフルートで再現されています。 タイトルトラック「光の国」は冒頭からL側にMellotron 3Violins、センターにMellotron Flute、R側にMellotron Celloを配して強烈に幕を開けます。 この曲は特に出来が良く、吉田達也さんのドラムも鬼気迫る切れの良さで、お世辞抜きにCRIMSON以上の破壊力と美しさを持った1曲と言えると思います。 「Living In Labyrinth」でも爆音の彼方からMellotronの断片を聴き取る事が出来ます。

2003年10月3日
未確認飛行物体
「UFO/Force-It」(1975年 UK/画像左)

 Michael Schenkerをギタリストに迎えての2作目、TEN YEARS AFTERのLeo Lyonsがプロデュースに当たり、同じくTEN YEARS AFTERのChick Churchillがゲストキーボードで参加しています。 アコースティックギターが美しい「High Flyer」では、中盤のエレキギターソロに合わせて、ヒリヒリと痛いくらいのMellotronストリングスが大々的に登場します。 アルバムラストの「Between The Walls」では、甘美なギターソロと美しいオルガンプレイ、そして荘厳なMellotronクワイアを使用して幕を閉じます。

「UFO/NO HEAVY PETTING」(1976年 UK/画像右)

 元HEAVY METAL KIDSのキーボード、Danny Peyronelが正式加入した作品。 バラード曲「BELLADONNA」では、中盤のギターソロに花を添える様にMellotronストリングスが登場し、エンディングまでそのまま流して行きます。 アルバムラスト「MARTIAN LANDSCAPE」もしっとりとしたバラードで、壮大なエンディングに向かってMellotronクワイアがバックを支えます。 使用機種は恐らくMellotron M400Sでしょう。

2003年10月3日
RAINBOWのORCHESTRON
「RAINBOW/On Stage」(1977年 UK/画像左)

 1976年のワールドツアーの模様を収めた実況録音盤。 ジャケット裏側には詳細な使用楽器一覧が掲載されており、その中に「POLYPHONIC ORCHESTRON WITH PEDAL」とあります。 スタジオ盤と同様「STARGAZER」で使用されたものと思われますが、このアルバムには残念ながら収録されていません。 ブックレットに掲載されているステージフォトには、Tony CareyがORCHESTRONを使用した証拠がありますので、画像だけでも楽しみたいと思います。 1976年来日公演の段階で、日本にもORCHESTRONが入ってきていたとは驚きました。

(画像中/上からMini MOOG、中段にARP STRING ANSEMBLE、下段にVAKO ORCHESTRON AorB型)
(画像右/キーボードブースの写真に「POLYPHONIC Orchestron」と書かれたORCHESTRONのロゴプレートを発見!わかりますか?)

2003年10月3日
銀嶺の覇者
「RITCHIE BLACKMORE'S RAINBOW/Ritchie Blackmore's Rainbow」(1975年 UK/画像左)

 DEEP PURPLE脱退と同時に、Ronnie James Dio率いるELFと合流する形で結成されたRitchie Blackmore新プロジェクトの1st。 「CATCH THE RAINBOW」では中後半にMellotronストリングスが使用されており、ゆったりと流したり、リズムを刻んだり変化のある演奏を聴かせています。 また、ギターソロのバッキングではMellotronチェロを使用しています。 「THE TEMPLE OF THE KING」でもMellotronストリングスが使用され、エンディングまでじっくりと聴く事が出来ます。 キーボードのクレジットはMickey Lee Souleとなっています。

「BLACKMORE'S RAINBOW/Rainbow Rising」(1976年 UK/画像中)

 ELF組のボーカルRonnie James Dioを除くメンバーをすべて一新した2ndアルバム。 ドラムスのCozy Powelらは安定した演奏を聴かせ、前作より骨太な印象を受けます。 キーボードのTony Careyは、収録曲「Stargazer」で無気味なクワイア音源を全面的に使用していますが、この音はORCHESTRONの音ではないでしょうか。 妙に均質で、かすれたような独特の音は、Mellotronとは明らかに違います。 曲中盤では同じくストリングスらしき音源も使用されている様子で、ジャケット裏のTonyのステージ写真にORCHESTRONを確認する事が出来ます。

(画像右/Tonyの左手側、上から3段目にVAKO ORCHESTRON A型もしくはB型があるのがわかります)

2003年10月3日
われら青春!
「中村雅俊/ふれあい」(1974年 JAPAN)

 青春ドラマで一躍人気俳優となった、中村雅俊さんのデビューアルバム。 大阪万博の翌年から米バークリー音楽院へ留学していたミッキー吉野さんの、74年帰国後初の仕事となった本作は、始めてシンセサイザーをレコーディングに導入すると同時に、Mellotronも使用した作品になっています。 「夏の終り」では、シンセサイザーとFender Rhodesのイントロに導かれて曲が始まり、中盤ではMellotronフルートでリズムを刻み、終盤からエンディングまでサックスソロのバックへ、目の覚めるようなMellotronストリングスをかぶせています。 「デンマーク農場」では、ホーンセクションとホンキートンクピアノを用い、後のゴダイゴを彷佛とさせるモダンなアレンジで流し、間奏にMellotronフルートを使用しています。 しかしながら「デンマーク農場へ君も行かないか・・わがあこがれのデンマーク、砂糖大根とジャガイモをつくろう」と明るく呼び掛けるこの曲のテーマは、どこから出てきたのでしょう? 四畳半フォーク的な作品が並ぶ中、1曲だけ強烈な何かを発散しています。 ミッキー吉野さんの苦労が忍ばれるMellotronの迷曲。

2003年10月2日
人形の家
「FAMILY/Music In A Doll's House」(1968年 UK)

 Roger Chapmanのビブラートボイスが個性的なFAMILYの1stアルバム。 ジャケットにクレジットはありませんが、ギタリストのJohn WhitneyがMellotronを兼任する他、アルバムプロデューサーであるTRAFICのDave Mason、そして既発のデビューシングルをプロデュースしMellotronも演奏した、同じくTRAFICのSteve WinwoodがMellotronを演奏しているようです。 牧歌的な英国イメージをベースにしながらも、左右へのパンや、ジェットフェイザー、リバーブ等、頭の中をぐるぐる回るサイケデリック感覚を上乗せした過剰なアレンジは、やはりTRAFIC「Mr. Fantasy」あたりを連想させます。 「Mellowing Grey」では、明らかにMellotron MARK IIと認識できる上品なストリングスが、ベースと兼任するRic Grechのチェロ、バイオリンと混奏されます。 「See Through Windows」では、ピッチベンディングしたサイケなMellotronストリングスが派手に使用されています。 「Voyage」では、吸い込まれそうなほど美しいMellotronストリングスが、暴力的なバイオリン演奏やサイケなテープエフェクトと同居しています。 「Me My Friend」でも深いエフェクトの奥でMellotronらしき音を確認する事が出来ます。 Mellotronの個性と多様性が、カラフルなサイケデリック感覚とぴったり一致した、いかにも60年代末期を感じさせる名盤。

2003年10月2日
エクセプション
「EKSEPTION/Beggar Julia's Time Trip」(1969年 NETHERLAND)

 TRACE結成以前のRick van der Linden率いる、EKSEPTIONの2nd。 ホーンセクションを含んだメンバー構成で、バッハやチャイコフスキーの楽曲も取り込んだトータルアルバムになっています。 尾崎紀世彦「また逢う日まで」ばりのホーンには、やや失笑気味ですが、Rickのオルガン、ピアノワークの切れの良さと組み合わせると、なんとも言えない妙味が生まれるから不思議なものです。 「Julia」「Italian Concerto」にはMellotronが導入されていて、Mellotron独特のリリースの無いストリングスを楽しむ事が出来ます。

2003年10月2日
ウィッシュボーンアッシュ
「WISHBONE ASH/Wishbone Four」(1973年 UK)

 傑作アルバム「Argas」を経て、初のセルフプロデュースで制作された4作目。 エレクトリックとアコースティックのバランスがとれたアルバムは、全米チャートでバンド史上最高位を記録しながらも本作をもってツインリードギターの片割れ、Ted Turnerは脱退します。 ゆったりと風に吹かれるような印象の「Everybody Needs A Friend」では、ゲストキーボードのGeorge Nashが爽快なMellotronストリングスを披露しています。 モノクロのポートレートに人工彩色したような独特のジャケットデザインはHIPGNOSISの手に依るものです。

2003年10月1日
恍惚万歳
「AMON DUUL II/Vive La Trance」(1973年 GERMANY)

 次作以降、アメリカ市場を意識したポップスへと変貌する彼らの6thアルバム。 パーカッシヴ、サイケデリック、無国籍、それまでの混沌とした要素を洗練し、前衛とポップの高度な折衷を表現した、初期傑作群最後の作品。 各曲コンパクトにまとまり、収録曲も増え、テーマも多岐に渡るのですが、独自性は衰えていません。 本作でMellotronを演奏するのはChris Karrerでしょうか、「Manana」では、無気味なトロピカルムードの中、Mellotronフルートが天に登って行きます。

2003年9月30日
宮殿再建
「KING CRIMSON/Lizard」(1970年 UK/画像左)

 宮殿にとり残されたRobert FrippとPete Sinfieldの2人が、メンバーを補充し、Keith Tippett Groupを取り込む事で再建を計った3作目。 アルバムはオープニングの「Cirkus」から、サイレンのようなMellotron MARK IIのブラスで幕を開け、ただならぬ雰囲気が漂います。 そしてMellotronフルート、Mellotronオルガンまで使用して、終盤はMellotronストリングスの宇宙に飛び出して行きます。 「Indoor Games」でもMellotronストリングスが使用されており、FrippのMellotron演奏は、オリジナルCRIMSONに遜色ないテクニックと楽器への偏愛を垣間見せます。 YESのJon Andersonがボーカルをとる組曲「LIzard」の冒頭「Prince Rupert Awakes」では、MellotronオルガンとMellotronウインドチャイムまで登場し、中盤からまたもやMellotronストリングスの猛吹雪になります。 「The Battle Of Glass Tears」でも、Mellotronストリングスがふんだんに使用され、Frippのプレイはピッチベンディングで大暴走します。 Keith Tippett Groupの緻密な演奏の最中にも、叙情的または、暴力的なMellotronが使用されるという、独特のコントラストを見せる1枚。

 メロトロン未使用ですが、関連ネタをふたつ・・・。

「井上大輔/めぐりあい」(1982年 JAPAN/画像中)

 映画「機動戦士ガンダムIII」めぐりあい宇宙編の主題歌。 B面収録の「ビギニング」は、KING CRIMSON「LIZARD」収録の「Prince Rupert Awakes」と同じ曲、いや、オマージュです。 ブルーコメッツ時代から、ポップスに日本的叙情を融合させる事を追求していた井上さんは、KING CRIMSONに何を感じたのでしょうか? 日本のIan McDonaldたる井上大輔の素晴らしいフルートソロは、一聴の価値があります。

「長谷川きよし/フォーク&ポップ リフレクションシリーズ」(1975年 JAPAN/画像右)

 盲目のシンガー長谷川きよしさんの「黒の舟歌」は、KING CRIMSON「LIZARD」収録の「Indoor Games」にそっくりなアレンジがされています。 男と女のあいだには〜・・エンヤコラ♪ なんて歌うバックの演奏は、まるでKING CRIMSON。 怪しい管の響きやフレーズは全く同じ、ドラムもAndy McCullochばりの細かいニュアンスを表現しています。 編曲は玉木宏樹さん・・・円谷プロの特撮番組の中でもカルト的人気を誇る「怪奇大作戦」の音楽を担当された方であり、日本のロック黎明期を支えたバイオリニスト。 なるほど、納得。

「井上大輔」「長谷川きよし」情報提供 Brother of mine氏

2003年9月12日
KITARO
「喜多郎/シルクロード〜絲綢之路〜II」(1980年 JAPAN/画像左)

 平均視聴率20%を超えたという人気テレビプログラム、NHK特集「シルクロード」。 好評のサントラ続編も充実した内容で、変わらぬ自然への畏敬の念を感じとる事ができます。 ゆったりとした独特のシンセシーケンスや、リードをとるコルグシンセのトレードマークと共に、Mellotron M400も使用されています。 「流るる砂」「生命の泉」では砂漠の陽光を想起させるMellotronストリングスが、メインテーマ「絲綢之路〜黒水城の幻想(SILVER MOON)」や、「時空間」「天山」ではMellotronクワイアが効果的に使用されています。 「神秘なる砂の舞(ローラン)」では、アルバムのハイライトとも言える熱演で、自ら演奏するギターやドラム、Mellotronストリングス、クワイアの猛吹雪が吹き荒れます。

「喜多郎/IN PERSON」(1980年 JAPAN/画像右)

 1980年9月16日と18日の演奏を収録したライブ盤。 サポートのキーボードには、現在SPOCK'S BEARDで活躍されている奥本亮さんがついており、喜多郎さんとそれぞれ1台づつのMellotron M400Sがセッティングされている模様です。 「無限水」「九月十八日」ではMellotronフルートが、「西への想い」でもMellotronフルート、ストリングスが活躍します。 「静けさ」では、うっすらと流れるMellotronクワイアをバックに、エキゾチックなフィドルのリード演奏が楽しめます。 スタジオアルバムと同様に「神秘なる砂の舞(ローラン)」では、Mellotronストリングス、クワイアがたっぷりと使用されており、ライブらしく生々しいMellotronを堪能出来ます。 また、オープニングの「プロローグ」や「絲綢之路〜黒水城の幻想(SILVER MOON)」「鐘楼」「朝の祈り」「天山」では、Roland VP-330ボコーダーを織りまぜた、Mellotronクワイアが使用されているようです。

(画像中/所狭しと機材が設置された自宅スタジオ)

2003年9月12日
冨田勲の世界
「冨田勲/冨田勲の世界」(1977年 JAPAN)

 冨田さん自らの監修で、MOOGの音作り、レコーディングの技術を解説するレコード。 レコードをかけて実際の音を聴きながら、ブックレットを読んで行くスタイルで、大変興味深い内容になっています。 ラヴェル「ダフニスとクロエ」を題材に各パート毎の解説があり、そのひとつにMellotronを使用した項目があります。

バック・コーラスの音声
 今度は、Mellotronによるバック・コーラスです。Melllotronは、Keith EmersonやRick Wakemanも愛用してきましたが、これはシンセサイザーではなく、音源はテープです。 半音づつ「アー」とか「ウー」とか、ただ伸ばしただけの人間の声がテープに録音されて並んでいるわけですが、キーボードを指で押さえると、その下のテープが回り出して声が出るという仕掛けです。 このため、声の出だしと終わりは、ちょうどハサミでカットしたように不自然です。

Mellotronの音
 これは、Mellotronの機構上、仕方がないのですが、そこにシンセサイザーとの併用を考えてみました。 エンベロープ・ジェネレーターを使って、先ほどの小鳥の声やストリングスの音のように、音の出だしと終わりに表情をつけます。

Mellotronの音の加工
 かなり感じが変わってきました、さらに、これに残響をかけてみましょう。

残響のかかったMellotronの音
 このように、Mellotronの音を手に入れてバック・コーラス部をつくってみましょう。 これは、先ほど述べたエンベロープ・ジェネレーターを使って表情をつける以外に、フィルターを使って音色も調整します。

バック・コーラスの音色の調整
 Mellotronは、テープの長さに限度があり、7秒でテープが終わりになります。 それ以上伸ばしたい時は、いったんキーボードから手を離して、テープが頭に戻るまで、0.5秒待たなければなりません。 その間は音が止まってしまいます。そこで、Rick Wakemanがやったように、2台のMellotronを用意して、交互に演奏するという方法があります。 多重録音の場合は、1台のMellotronでも、ふたつのチャンネルを使って音をつなぐ方法があります。その方法とは、ひとつのパートに対して、テープ・レコーダーにふたつのチャンネルを用意し、まず、ひとつのチャンネルに録音します。 当然、音の抜ける部分ができてくるわけですが、その抜けた部分をもうひとつのチャンネルで録音しなおして、あとで、そのふたつのチャンネルをミキシングし、ひとつのチャンネルにつなぎます。 この「ダフニスとクロエ」のコーラスの部分は、かなり長く音をひっぱていますので、この方法をとりました。 それでは、今のコーラスに厚いエコーをかけてみましょう。

 そして、完成型を聴いて、このパートが終了します。

(画像右/スタジオの冨田氏の右手側に白いMellotron M400S)

2003年9月12日
TOMITA
「冨田勲/Snowflakes Are Dancing」(1974年 JAPAN)

 MOOGIII-Pを一部導入したいくつかの習作を経て、14ヶ月にも及ぶ試行錯誤を重ねた初の本格シンセサイザー作品「月の光」。 「Switchd On Bach」等の先駆的作品はあれど、ここまでシンセサイザーサウンドを立体的に膨らませてみせた作品は初めてでしょう。 当初保守的な日本市場ではリリースされず、米RCAビクターからのリリースによって、ビルボードチャート2位の快挙を成し遂げました。 独唱を模したMOOGサウンドも使用されていますが、合唱にはもっぱらMellotronクワイアが使用されています。

「冨田勲/Pictures At An Exhibition」(1975年 JAPAN)

 ドビュッシー「月の光」に続く作品、ムソルグスキー「展覧会の絵」。 こちらもビルボードチャート1位を獲得し、名実ともに世界のTOMITAとなりました。 オープニングから荘厳なコーラスを聴かせるのは、Mellotronクワイア。 ここで聴かれるロングトーンのMellotronクワイアには、冨田さん独自のレコーディング技術が活用されています。

2003年9月12日
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